Death01.【嘘のような現実】


暗い、光すらも飲み込みそうなほどの漆黒。その中にあって何故か存在が確認できるものが2名いた。

暗闇であるが存在が認識できる不思議な空間。

「で、何で俺は此処にいるんだ?」

「あ、あははは」

日常から突然不思議な空間に連れて来られた青年は意外にも冷静に、そして苛立ちの篭った声で目の前にいる少女に尋ねる。

対する中学生くらいの少女は冷や汗を流しながら乾いた笑いで何とかしようと無駄な努力をする。

「答えろ」

「・・・・・はい」

青年の鋭い睨みに少女は観念したかのように項垂れる。

「貴方は死んだの。事故に巻き込まれて」

「その事故を起こした張本人がよくそんなことをいえるな」

街道を散歩中に彼は大型トラックに突っ込まれて吹き飛ばされた。だがその最中に彼は少女の姿をぶつかってくるトラックの

頭上に見ていたのだ。少女が何らかの細工を施してトラックを操作したことは簡単に推測できる。

「ぐぅ、意外と鋭い」

「それで俺をこんな目に合わせたわけはなんだ?それによっては今回のことは不問にする」

意外な彼の言葉に少女はしばしば目を瞬かせる。これは予想外な展開であった。普通の人間ならば死んだと告げられて冗談だと

笑い飛ばしたり、本当だと信じてからは混乱し泣き喚いたりするはず。だが目の前にいる青年はそのどれにも該当しない。

あるがままに事実を受け止め、あるがままに順応する。

「可愛い子ぶっていれば流せるとか言ってたルナスが阿呆みたいだわ」

「本題に入らないのか?」

少女の呟きの意味が分からず、青年はさらに苛立ちを募らせながら先を促す。それに少女は機嫌を損ねないために向き直り

本題となる話を始める。

「簡単にいえば貴方に協力して欲しいのよ、影見 蒼」

「俺のことはすでに調べているということか。そうなれば過去もか。・・・・いいだろう協力する」

「頭の回転速すぎるわよ」

青年にとってはどうということはなかった。過去にこのような不思議なことはあの忌まわしい事件しか心当たりが無い。

そしてその事件の事後処理が出来るのならば命も厭わないと青年は覚悟していた。

「それで協力といっていたが明確に俺は何をすればいいんだ?」

「それを教える為にはまずは私が行っていることを説明する必要があるね。私は貴方達が御伽噺だと思っている【死神】と

いう存在。ちなみに幽霊とか神様とかじゃないよ。人間であったり、別種族だったりはするけど。仕事の内容は大地に害を

成す者の排除。主に悪霊、人工物、他世界からの侵入者撃退ね。悪霊が害を成すのは分かるわよね。人工物はつまり人間が

生み出し、そして制御できなかったり、人間には過ぎた物である場合のもの破壊。他世界からのは稀にしかないから後で

教えるね。以上、説明は?」

矢継ぎ早に話された為に彼は少し思考する。頭の中で少女が話した内容を整理しているのだろう。その中で疑問に思った

ことを口にする。

「害を成すと判断するのは誰だ?」

「基本的に死神の判断で行動する。情報収集とかは私のほうで行うから危険だと思ったものは使い魔を通して知らせるわ。

あとは協会からの依頼もある。これは副職みたいなものだから拒否しても良いわ。だけど収入を考えるなら行ったほうがいい。

だけど気をつけてね。協会は私達死神を監視、飼おうと企んでいる節があるから」

「分かった。俺からの質問は以上だ。だが戦い方については教えてくれるんだろうな?」

今まで日常の中で生活していた彼に戦い方など分かる筈がない。知っていたとしてもそれは喧嘩であり、命のやり取りを

するものではない。

「当たり前でしょう。素人を野に放したりなんかしないよ。じゃあ次は武器について説明するね」

少女が右腕を一振りすると先程まで何も握られていなかった手に大きな鎌が握られていた。出所は全く分からない。

「基本的に私達の武器はこんな大鎌。この大鎌には様々な術理が刻まれ、含まれているから絶対に壊れない。それにその術理の

おかげで魔術の消去なんて行為も可能。術理や魔術のことはまた後で説明するわ」

「大鎌は何処から出したんだ?」

「使用者の意思一つで出し入れ可能よ。これだけ大きいと持ち歩くわけにもいかないからね。それじゃ早いけど魔術について

説明するよ。ん〜、手っ取り早く百聞は一見にしかずということで実践してみせるわ」

小さな灯火を宿した彼女の指が空中を踊る。灯火は軌跡を残しながら踊り続け、一つの紋様を編み出す。

「炎、発動」

零す言葉が力の発言の鍵を開ける。彼女が編み出した紋様から激しい業火の奔流が出現する。熱波を感じることから

これが現実であることを知らしめる。

「今のが魔術よ。種類でいえば『呪印』ね。他にも魔法陣とかあるけど今は呪印だけを覚えること」

「分かった。他の事も頼む」

「OK、それじゃ始めようか。名乗り忘れていたけど私は『エレミー・イングレッサ』よ。以後よろしく」

「俺は『影見 蒼』といってもお前は知っているのだったな」

お互いの名乗りを終えると本格的な講義へと移った。実戦で必要とされる知識、生き残るための戦いの方法。

一歩間違えれば講義中に死ぬ可能性も出てしまう。だが彼は諦めることはしなかった。

過去との決着が付けられるかもしれないから。