Death04.【死神始動】



月夜を背後に讃え、死神は地を這う化け物に鉄槌を下すために空を駆ける。

ビルより落下する死神は魔術の力を使用して着地、同時に大上段より振り下ろした大鎌で一体の獣人を切り伏せる。

頭部から股間まで真っ二つにされた獣人は考える間なく絶命。

音も無く振ってきた死神に他の獣人たちの反応は当然ながら遅れる。

それが命取り。

疾風となりし死神は次なる獲物へとその凶刃を振り抜く。抵抗無く斬られた獣人もまた絶命。

「残り9匹」

二体目を殺した所でさすがに獣人たちの動きもまともなものへと変わる。狼狽することは無く、威嚇するように

低く唸りながら死神の周りを回る。

いきなり襲い掛からずに相手の出方を伺う。獣が最初に敵と接触する際は必ず警戒し、こちらから仕掛けようとはしない。

仕掛けてくるとしたらそれは痺れを切らした証拠。

今も痺れを切らした獣人の一体が死神へと飛び掛る。

それを死神は大鎌を使わずに蹴りで叩き伏せる。致命傷でないことは確かだが数秒の時間は稼げる。

その間に時間差で飛び掛ってきた獣人へと大鎌を向ける。斜め下から振り上げられた大鎌は獣人の腹部を貫通、そのまま

地面へと叩きつける。その場所には先程蹴りで悶えていた獣人がおり、巻き込まれ死亡する。

「残り7匹」

今の攻防を目の当たりにした獣人達はさすがにただ襲い掛かるだけでは返り討ちに遭うことを理解する。

だがどうすれば死神へと一矢報いることが出来るのかまでは考え付いていなかった。

だから死神は動く。

突如として動いた死神に獣人たちの反応が遅れる。だがそれが致命傷とはならない。

狙われた一体が動きを止め、死神の動きを限定すると残りの獣人達が一斉に飛び掛る。

それは予測されていた動き。

唐突に止まった死神は大鎌の石突を利用して印を描く。それは魔術のキーワード。

「風、発動」

描かれた呪印が光を放ち、魔術が発動する。全周囲へと放たれた風刃が飛び掛ってきた獣人たちを迎撃する。

筋肉が常人よりも発達している獣人たちに対して致命傷とはなりえないが、足止めとはなる。

その間に狙いをつけていた獣人へと刃を突き立て数を減らす。

さらに新たな印を地面へと描く。

「炎、発動」

呪印より顔を出したのは炎蛇。細い舌を細かく動かしながら地面を這うように動く。這った後の地面は黒く焼け焦げ、

倒れていた獣人たちを次々と黒炭へと姿を変えていく。

「残り1匹」

先程の魔術で全ての獣人が消滅したように思える。だがあの攻防の間に一体の獣人が逃亡していた。敵わないから

逃げるというのは潔く賢い判断である。

逃げたといってもそれほど時間は経っておらず、近くの何処かに隠れているはず。全力で逃げた所で逃げ切れるはずが

無いと判断するならば何処かに隠れるというのが妥当な判断である。

死神は武器である大鎌を隠れていると思われる場所に放り投げる。だが外れな様で大鎌は虚しく音を立てて建物の

壁へと突き刺さる。無手となる死神は何の脅威も感じられない。

好機と見た獣人は常人離れした速度で死神へと襲い掛かる。武器を放り投げた死神に対抗する手段は無いはず。

武器である大鎌は建物に突き立ててあり、印を描いている時間も無い。

勝利を確信した獣人は鋭い爪で貫手を放つ。顔面を狙った貫手は死神の頬を浅く裂いただけで終わる。

代わりに死神の掌が獣人の顔面を捕らえる。

「雷、発動」

腕に刻まれている呪印が光沢を放ち、雷が死神の掌を通じて獣人へと襲い掛かる。脳内を駆け回る雷は確実に

獣人の脳を破壊する。人肉が焼ける嫌な臭いと煙を出しながら最後の獣人が倒れる。

死神が辺りを見渡しても動くものは何一つ無い。もしかしたら先程の獣人のように隠れているかもしれないが

屋上から見た限りでは数に間違いは無い。

大鎌を取りに建物へと近づく死神。その時、上空より奇妙な音が響いてくる。

何か巨大なものが上空から降ってくるような空気を無理矢理押し分けてくるような音。

上空を見上げれば巨大な氷塊が死神目掛けて落下してきた。

初めて死神の表情に焦りが浮かぶ。大鎌を手にすぐに駆け出すがビルの間にいるために逃げるべき道は限られる。

死神の逃亡を許す前に氷塊はビルとビルの間を埋めるように轟音を立てて地面へと激突した。

屋上から眺めている人物は歓喜を心で現して、勝利を信じた。

真実を何も知らずに・・・。