Death07.【久方の日常】 魔術師の一件から5日が経ち、蒼はようやく退院が出来た。 別に身体に異常があったから入院が長引いたわけではない。念のために行った検査が予想以上に長かっただけ。 そして蒼は入学式にも訪れることが出来なかった高校へと向かっていた。 隣にエレミーを引き連れて。 「何でお前まで来るんだ?」 「いいじゃない、どうせ道が同じだけなんだから」 「迷惑だ」 エレミーの容姿は日本ではかなり目立ってしまう。朝日を照り返す見事な銀髪に、明るい緋色の瞳。 すれ違う人々は何者かと振り返る。それほどまでの美少女。だが隣を歩く蒼にとっては邪魔者でしかなかった。 エレミーが注目される度に横にいる蒼までも注目されるから。 蒼も本人は全く外見を気にしていないが中々の美形である。だが無表情で近づきにくい雰囲気を出しているために 近づこうとするものが少ない。 「それに少しばかり厄介なことをいわないといけないのよ」 「厄介事を持ち込んだんじゃないのか?」 蒼に対して修行という名目でエレミーは数々のことを仕出かしていた。その為、蒼は常に彼女を疑って行動する。 自分の仕事を押し付けることなど彼女にとって面倒事を厄介払いできて嬉しい限りなのだ。 「違うわよ、貴方に監視者が付くの」 「監視者?」 「死神という存在は過去の事件よって協会から警戒されているの。協会というのは略称で『戦略的武力統合協会』が正式名称。 そこから死神に対して監視、及び束縛を目的として一名の人物が派遣されるの」 「お前の力で何とかならないのか?」 本当に迷惑そうに蒼はエレミーに尋ねる。1人でいることに慣れている蒼にとって監視を名目として横に立たれることは 迷惑この上ない。 「それは無理ね。私だって協会と全面戦争したくないわよ。量でいえばあっちのほうが断然上なんだから」 つまり彼女単体でも死神が総力を合わせても協会には勝てない。だがそんな勝つことが必然的な協会が死神を警戒することは 勝利しても協会側も相当な損失を出すということだろう。 「蒼が死神としてデビューして数日が経ったわ。その間に協会は監視役の根回しを完了しているはず。蒼の学校に転校生として 入ってくる可能性が高いわよ」 「こちら側に危害を加えてきたら排除しても良いか?」 「それは構わないけど、事後処理は蒼一人でやって頂戴よ。協会と事を構えるのは私は勘弁して欲しいから」 言う事を終えたのかエレミーは蒼よりも少し歩みを速め、距離を取る。 「それじゃ私は他の現場に行くわね。くれぐれも監視役と仲良くね」 「善処はするさ」 そのままエレミーは角を曲がり、消えていく。当分会うことは無いだろう。 蒼は周りの目を気にするでもなく、入学試験以来の高校へと足を踏み入れた。 瞬間、背中を思いっきり叩かれた。 「いよぉ!怪我は治ったのかよ?」 「確認する前に殴るな、雅人」 屈託の無い笑みを浮かべながらバシバシと蒼の背中を叩くのは中学から同じ学び舎に通っている『須藤 雅人』 雰囲気が怖いとか無表情で何を考えているのか分からないという理由で蒼は小学時代から友人と呼べる者がいなかった。 そんな蒼に雅人は興味本位で近づいた。だが蒼は全く雅人に構うことなく日常を過していく。 しかしあまりにしつこい雅人に蒼のほうが根負けした。そこから蒼にとって初めての友人が出来たのだ。 「しかし入学式前日に事故って登校が遅れるなんて不幸というか何というか」 「好きでなったわけじゃない。お前だって病院のベッドで1週間過してみろ。気が滅入るぞ」 「確かにそれは勘弁してほしいな」 他愛のない会話を交えながら蒼は教室に向かう。場所は雅人に聞いており、彼と同じ教室であったために迷うことはなかった。 「ちなみに圭も一緒だぞ」 「あぁ、よく合格できたよな。あいつ」 中学時代、蒼に無謀にも喧嘩を売った人物。それが『佐久間 圭』運動神経において常人よりも上であった蒼と互角に 戦い、そしてちょっとしたミスによって負けた人物。何故かそれ以降、懐かれてしまった感じである。 「カンニングしたんじゃないかと俺は思っているんだ」 「そこまで堕ちないだろ、あいつだって」 「当たり前だ!正々堂々としてこそ男だろ!」 教室の前で会話していた為か中に丸聞こえだったようである。2人は気にするでもなく圭を押し退け中に入る。 「無視するな、頼むから」 「朝っぱらから暑苦しいんだよ」 蒼の言葉に意気消沈する圭に雅人は軽く肩を叩いてあげる。だがその行為自体でさらに圭は沈んでいく。分かっていて 雅人も行ったのだ。 こんな下らない会話をしている時の蒼の顔は不思議と穏やかなものとなっている。普段の冷たい雰囲気がこの時だけ 無くなっている。だが2人が離れれば蒼は普段どおりの雰囲気を纏うだろう。他者を拒絶する壁を作り上げる。 そしていつしか会話が終わり、チャイムが鳴り響く。 「はい、着席」 同時に入ってきたのは30歳を過ぎたであろうか貫禄のある女性教師であった。自然と蒼は朝のエレミーとの会話が 気になりドアの方へと顔が向いていく。確かにガラス越しであるが誰かが廊下に待たされている。 「おっ、今日から来ている者がいるんだな。身体のほうは大丈夫なのか?影見 蒼」 「完治しました。ご迷惑をお掛けしました」 律儀に言葉を返す蒼に教師は意外と好印象を受けたようである。だがそれ以上に蒼には近づかないだろう。 理由は同じである。 「ということで今日から出席の影見 蒼以外にもう1人急遽ではあるが転校生がこのクラスにやってきた」 静まり返る教室。ある意味で嵐の前の静けさともいえる。 「それでは入って来い」 沈黙に耐え切れなくなった教師が廊下へと声を掛ける。ドアが静かに動き、最初に目に入ったのは鮮やかな金髪。 流れるように細やかな金髪に教室にいる誰もが固唾を呑んだ。 「えっと、『クレア・シィラエル』と申します。どうかよろしくお願いします」 日本語がペラペラの外国人。だがその紹介にも誰も反応できなかった。 それは彼女があまりにも綺麗であり、清純であると感じられたから。 だが蒼は一瞬だけ目の合った彼女を警戒していた。 一瞬だけ見せた獲物を確認するような瞳を。 |