Death12.【共有する身体】 天使が日常に存在する世界。それはすでに空想が入り混じっている空想世界ではないのだろうか。 天使、魔物、魔術師。それら全てが常識では考えられない力を有している。 それが現実であることを受け止められなければこの世界ではやっていけない。 「気をつけるべきはクレアの内部にある天使の人格よ。彼女が死神を敵として認識したらまず勝てないわ。 封印されているといってもその力は絶大。私ならともかく蒼じゃ手も出せないはずよ」 「敵になる可能性の者をまだ傍に置かせる気かよ。協会に掛け合って監視の解除できないのか?」 「無理よ。協会は梃子でも動かないわ。過去の事件が協会に私達の恐ろしさを知らせているんだから」 過去に一体何が起こったのか蒼には全く分からない。蒼はその時に生きており、その場面にいたわけでもないのだから。 何よりエレミーも何も語ってはくれない。 「でも人間としての彼女は貴方に対して敵意は持っていないはずよ。貴方を撃つチャンスは幾らでもあったはず なんだから」 学校で、あの戦闘の時にクレアが蒼を撃つことは出来た。蒼だって警戒はしていたが、それが緩む時だって存在する。 なのに彼女は撃たなかった。撃つ理由が無かったから。 「どちらにせよ、クレアが起きてくれないと次の話に進めないわ」 「俺に対して教えることは終わりか」 「終わりじゃないわ。蒼、以前に忠告したはずよ。蒼に与えた力は万能じゃない。慢心や油断は命取りになるわ」 「あぁ、分かっている」 今回の1件。あれは蒼の慢心と油断による敗北だった。敵のことをあまく捉え、自分の予測範囲外の行動を取られ 反応できなかった。その一撃が蒼を渾沌させたものである。 「もしクレアの力が発動してたら蒼は死んでいた。それは紛れも無い事実よ」 「分かっている。俺の力も精神もまだまだ未熟ということだろ」 蒼自身もそのことを痛感していた。目的のために手に入れた力を頼りすぎ、結局は力に溺れてしまった。 それは彼の仇である魔術師の行動と同意義。もっとも犯してはならないことである。 「ん・・・・むぅ」 身じろぐ音と呻き声に2人の死神の視線はそちらに向く。 意外と大きな声で語っていたのだから眠っている人物が起きるのは必然であろう。分かっていて2人ともやっていたの だから。 「此処・・・は?」 「俺の家だ」 蒼の声を聞いてもクレアはまだ状況を理解できないでいた。寝起きのために脳がまだ活性化していないためであろう。 ボォーとした瞳で部屋の中を眺めている。その瞳がある一点で止まる。 「誰?」 「お初にお目にかかるわね。私は黒を司る死神エレミーよ。蒼の同業者だと思って頂戴」 その言葉だけでクレアの脳は一瞬にして活性化を行い、警戒を全身に走らせる。何か分からないが本能的に目の前に いる少女が危険であると判断したためである。 「一つ聞かせてね。貴方は自分の中に存在するもう1人のことを知っている?」 「何故貴方がそれを知っているの?」 それはクレア自身だけが知っていることだと思っていた。だがそれは違っている。この地上に存在する何名かは クレアの内部に存在する人格に気づいていた。 「これでも結構な年を生きているからね。貴方と同じような人は何人も知っているの。だから貴方の内部にいる 人格も知っているわけ。それじゃもう一つ。言葉を交じわした経験は?」 「あるわ。彼女は私に『貴方の生活を尊重する』といったわ。だから私は今のままでいられるのよ」 天使の力が強いのはこの業界にいるものならば誰もが知っている。人間が1に対して天使はその何十倍もの力を 有しているのだから。単純な力だけでも勝てるわけが無い。 精神的な勝負。それも天使に軍配が上がる。完璧な思考回路を有する天使に脆弱な精神の人間が勝てるはずが無い。 「珍しいタイプね。普通なら乗っ取りに掛かるはずなのに」 「彼女にそこまでの力がまだ戻っていないからとも言っていたわ。それに何らかの障害によって思考回路にも 異常をきたしたみたいなの」 だからこそ表に出ることを天使自身が拒否したのだろう。異常をきたした状態で外に出た場合、どんな不具合が 出てくるのか予測も出来ない。 「でもすでに接触しているのなら力の使い方くらい教えてあげても良いのに」 接触が可能ならばクレアに教養を与えることも出来るはず。それを何故天使がしないのか分からない。 元々の思考が人間とは違うのかもしれない。 「貴方の力について私達が教えられることは無いわ。力の制御の仕方は天使に直接聞くことね」 それだけ語るとエレミーは立ち上がり、玄関を目指す。 「ちっ、意外と時間的余裕があると思ったけど見通しが甘かったみたいね」 どうやら仕事のほうが切迫してきたようである。その為にエレミーの表情に焦りが見え隠れする。 「頑張って来い」 「無責任に、そして無表情に言わないで欲しいわ」 無表情が蒼の持ち味であることを理解しつつも、反論したくなるのが人間というものである。 苦笑を浮かべつつ、エレミーは戦地へと旅立っていく。 ただ見送ることしか出来ない2人は気まずい雰囲気の対処に困り、それぞれで思考が混乱する。 テスによる援護が無ければ2人は何もせぬまま朝を迎えるところだっただろう。 不器用な2人に、使い魔であるテスは深々と溜息を吐きながら今後のことに不安を募らせていた・・・・。 |