Death13.【分かれ道】 誰もいない空港。それは不気味以外に感じるものは無い、夜となれば尚更である。 今回蒼に下された指令は吸血種の保護、または抹殺。 こちらのいうことを聞くのであれば保護、聞かなかったら抹殺。 協会にとって都合のいい内容である。蒼にとってその命令自体が気に喰わない。 だがやらなければエレミーやクレアに迷惑が掛かってしまう。 自分自身に災厄が訪れるなら蒼は黙って迎え撃つ。だが知り合いに危害が加わるのは嫌う。 そして何故今回蒼1人で空港に来たのか。 それは今回の依頼が同時に二つ、蒼とクレアの元に送られてきたから。 テスは本来蒼の使い魔であるが、クレアのサポートに付けた為に蒼の元にはいない。 孤独の戦いは蒼にとって今回が初めてである。 最初の戦いのときはエレミーが遠くから見守っていてくれた。 次の悪霊のときはクレアが一緒であった。 誰かと一緒で無いという孤独は意外なほど精神に負担を掛ける。 だが内面の不安を蒼が表に出すことは無い。 足音を響かせながら、誰もいない空港の中を闊歩する。 しかし本当に誰もいないわけではない。だとしたら蒼が此処に派遣されるはずも無いのだから。 人間ならざるものが必ず何処かに潜んでいるはず。 警戒は怠らずに常に周囲の気配を探る。 武器はあえて出さない。ただ無手ならば敵に対して油断を与え、隙を作ることが出来るから。 死神にとって大鎌を取り出すのは自由自在なのだから、常に武器を携帯していると同じ。 「見ていないで出てきたらどうだ?」 それでも攻めてこないのは慎重なのか、臆病なのかどちらかであろう。今回の相手は前者であろうが。 「なら燻り出す」 空港はすでに人の出入りが禁止されている。つまり何をしても誰も来ないし、文句も言われない。 さすがに調度品を壊せば苦情がいくだろうが、そんなことは蒼の知ったことではない。 「炎、発動」 発現したのは灼熱の炎。 蒼を中心として円を描きつつ、炎は一気に周囲に広がる。 「ちっ、無茶苦茶な」 炎を飛び越える二つの影。1人は男性、1人は女性。蒼が注意を向けるは女性の方。 「一つ聞く。お前達は協会に従う気はあるか?」 「ない」 答えたのは男性。剣を抜き、男性の方は戦う気満々であるも、女性の方は他を気にしていた。 蒼も先程からずっと気にしていることがある。空港には本当にこの3人以外にいないのかと。 別の気配が周囲に溢れ始めている。 「追われているのか?」 「こっちにとっては勢力が二つに増えて面倒だがな」 協会以外にも追われているとなると蒼にとっては面倒なことになってしまう。 依頼は保護という項目がある。つまり他敵に2人を奪われるわけにはいかない。 「追っている勢力は?」 「聖堂です」 答えたのは女性。すでに彼女は戦闘態勢を整えており、鋭き爪が煌く。 同時に周囲に展開している勢力が姿を現す。 白き衣に身を包み、物騒な武器を携帯した集団。それは明らかに蒼にも敵意を向けている。 「聖堂にとって死神は邪神扱いだ。こいつらの排除項目にはお前も追加されているぞ」 聖堂、それは神に愛されし世界の秩序を守る団体のことを簡略化したもの。 しかしその思想は世間一般からかなりかけ離れたものでもある。 特殊な力を持っている自分達は神に愛され、力の無いものは自分たちによって管理されてこそ平和に過ごすことが 出来る。だからこそ我々は清く崇高な存在である。 他者を見下し、自分達だけが世界を救える存在だと勘違いしている団体。それが聖堂。 「共同戦線を張りませんか?」 「なっ!?シュリ、正気か?」 「いいだろう、邪魔者がいない方がこちらもやり易い」 ほぼ即答で返した蒼に男性は疑いの眼差しを向ける。敵がいきなり味方となれば当然怪しまれる。 「お前は勘違いしている。俺の目的はお前達の保護だ。抹殺はあくまで最終手段。分かったか?」 それでも男性は納得しない。だがその間にも聖堂達の包囲網は徐々に完成しつつある。 悩んでいる時間はない。 「邪神を殺せ」 「呪われた女を殺せ」 「裏切り者を殺せ」 呪詛にも似た小さな呟き。薄気味悪さを存分に出しながら各々の武器を構える。 「迷う時間はないわ。今の私達に必要なのは共通の目的を有する一時の味方。この瞬間を乗り越える為に たとえ死神といえど信用するしかないわ」 すでに戦う気でいるシュリは爪を異常なまでに伸ばしていつでも動けるように姿勢を整える。 「信用するしないを考えている時間はない。・・・来るぞ!」 蒼の言葉とほぼ同時に聖堂の者達は一斉に動き出す。 深夜の誰もいない静けさを満たす空港。されど内部では激しき抗争が勃発している。 静かな夜には似合わない激音を孕みながら、空港は殺戮の舞台へと変わる。 死神、吸血種、裏切り者、三者を結ぶ信頼関係は築かれるのか。 それはこの戦いを乗り切った後に答えは出る・・・・・。 |