Death14.【吸血と生死】



夜の静寂を引き裂く劈く様な悲鳴。それは腕を切り裂かれた敵が上げたもの。

慈悲も与えずに、蒼は大鎌を振り抜き首を斬り落とす。

多勢に無勢の状況でありながら、蒼は焦ることも無く淡々と殺していくのみ。

相手は特に能力があるわけでもなく、重火器によって武装した者達。

乱戦となっている今の状況で銃を使うことは明らかに不適切。

味方までも巻き込んで殺しては意味が無い。逆に蒼達のように近接のみで地道に減らしていくのが常識。

その際に囲まれたり、背後を取られないことを心がけないといけない。

溢れかえる血と硝煙の匂い。確かに敵の数は相当数いる、だが質が蒼達の実力に伴っていない。

「死神、そっちを頼む!」

互いに隙を埋めつつ、最初の目的である敵陣の突破を図る。いつまでも包囲されたままでは拙い。

「風、発動」

作り出されし風刃は一番手薄となった場所を通過し数多の屍を作り出す。綿密な計画をしたように3人は一斉に

その場所を目掛け走り、包囲を突破する。

「このまま逃げるか?」

「どうせ追ってくる。なら今の内になるべく数を減らしておくほうがいい」

蒼の提案を男性は否定し、振り抜き様に敵から奪った銃を乱射する。大勢で追ってきているために避けようにも

隣の者が邪魔となり被害は広がるだけ。

「残りは?」

「ざっと見積もって20人くらいか」

飛び交う銃弾を柱の影でやり過ごしながら状況を冷静に分析する。魔術を使用して一気に殲滅するのが一番効率が

いいのだが、魔術を放つ際に必ず瞳で捉えないといけない。

魔術が発生する位置を絞っておかなければただの無駄撃ちでしかない。今のように引っ切り無しに銃弾が飛んできて

いるような状況では頭を出しただけで蜂の巣になることは分かりきっている。

「さてどうするか」

だが悩んでいる時間を敵が与えてくれるはずがない。硬い物が床を叩き転がる音。

それを視認する前に3人は柱から飛び出し、急ぎその場から離れる。

数秒の後に起こる轟音と爆発。

投げ込まれた手榴弾が爆発し、空港を振るわせる。十分予想し得ることであったが、少しの油断がこの結果に繋がった。

分かれた先がそれぞれで違ったために完全に分断されてしまった。

「ご丁寧に1人対して7人ずつか」

単純に計算して残りの敵は21人だろう。だがその程度の数で苦戦などしていられない。

相手が何の能力も無く、ただ武装しているのであればだが。

「炎、発動」

放たれた複数の炎弾は蒼目掛けて飛び交う。魔術を扱う者が混じっていたのであれば苦戦は必死。

だがそれは蒼にとって関係の無いことであった。特殊な力を有する蒼は炎弾がどのような軌跡で飛んでくるのかが

視えている。魔術は魔力によって方向を定められているために魔力は線となって発動したものを導く。

つまり発動よりも先に線がすでに形付けられる。蒼はそれから逸れるようにただ動けばいいだけ。

「予知能力か!?」

「残念、外れだ」

何も知らぬものならば未来を視て、攻撃を避けているように見えるだろう。だがすでに実在をするものを通して

いるのだから予知能力とは違う。しかし蒼の魔眼にも弱点は存在する。

眼を使うのだから視覚に入ったものしか視れないのは当然。つまり蒼を魔術で攻めるためには視覚外から魔術を

発動させるか、瞬間的に発動するものを使用するしかない。

だが魔眼の存在に気づいていない敵はただ我武者羅に魔術を放つことしかしなかった。

どうやら敵は放出系の呪印しか保持していない。蒼にとってはこれほど相性のいい敵は無い。

術の射線を見抜き、避け、あっという間に自身の間合いに入ると大鎌を一閃。瞬く間に3人を血溜まりに沈め、

さらに追い討ちを掛け、敵を全滅させる。

共闘しているだけに蒼は戦闘を行いながら他の者達の行動も視界に収めていた。しかしそれは杞憂でしかなかった。

心配する必要も無い圧倒的な戦い。だがそれをいえるのは女性の朱里だけであった。

圧倒的な身体能力を駆使して彼女は呪印を施されている者を優先的に排除していく。

吸血種となった時点で彼女は人間ではない。身体能力は人間と比較するだけでも馬鹿馬鹿しいほど飛躍し、さらに

特殊な能力までも操れるようになる。その代わり人間とは神経系が多少変わってしまうために呪印を施すことが

出来ず、結果的に魔術を扱うことが出来ない。

それが弱点となるが、弱点を補う以上にその戦闘能力は異常である。

心配すべきなのは一緒にいる男性である。彼は何の変哲も無い人間である。呪印も彫ってはいるが、それだけ。

他に特出すべき点は何も無い。あえて上げるならば実戦経験が3人の中で一番高いだけ。

そして相手はかつて彼が所属していた組織の人間。やり口ならば彼がもっとも熟知している。

だが物量に押されれば彼だって苦戦することは当然。だからこそ彼は増援を待っているのである。

あえて攻勢に出ず、自身の被害を減らすために防衛に転ずる。それでも敵を2人減らしているのは凄いというべきである。

死神と吸血種が合流した後はあまりにも呆気ない結果である。

挟撃にあった敵は抵抗する間も与えぬ攻撃によって沈黙。空港に乗り込んでいた聖堂は一時間も掛からずに全滅。

不甲斐ない結果。しかしそれは当然ともいえる。

吸血種一人だけでも負けるかもしれないのに、それに熟練された戦士、戦闘に特化された異能者の死神がいるのであれば

言い訳の必要も無い。

だが聖堂が全滅したからといってこれで終わりではない。

本当の終わりは吸血種をどのように処分をするか。それが決まるまで夜は明けない・・・・。