Death15.【共存か戦争】


長い沈黙が現れる。

それは両者共に答えを出し切れていないからの結果。

二人を殺すことに理由を見出せない死神。

共闘した死神を殺していいものか迷う二人。

戦闘することに理由を見出せないのならば利益も無いのは当然。

だからこそそれぞれで躊躇う。

理由さえあれば躊躇も無い。

だがそれにはきっかけも必要となる。

そのきっかけは意外な形で訪れた。

静かなる空港に響く携帯の虚しき音調。

発生源は死神。

「出てもいいか?」

「構いません。攻撃する意味がありませんから」

「そうか」

携帯を取り出すときですら蒼は2人から視線を外さない。

もし仮に今の言葉が嘘になるのであれば警戒するに越したことは無い。

2人同時に攻められればいかに蒼であろうとも苦戦、または敗北することもありえる。

それほどまでに吸血種という存在は脅威なのだ。

「んっ、分かった」

時間にして数秒の会話だけで携帯を仕舞う。

それだけで用件が伝わっているのだろうかと2人は疑う。

同時に大鎌も仕舞う死神に2人はさらなる疑問を思う。

「本部からの用件だ。あんた達の処遇は協会側で預かることで見解が一致したらしい」

「それはつまり今度は協会のモルモットになれということか?ふざけるな!」

「違う。あくまでお前達の処遇は俺達死神と同じ、協会への協力者という立場だ」

「では依頼されたことに対して拒否権も行使できるということですね?」

「そうだ。それでどうする?この申し出で納得できない場合はお前達を処断せよといわれている」

お互いに顔を見合わせているが吸血種の彼女はすでに答えを出している。

煮え切らないのは男性のほうである。

「男ならさっさと決断しなさい」

「そうだな、信用させてもらうぞ死神」

「俺を信用するな。協会のお偉い方を信用しておけ」

あくまで判断は死神ではなく、協会にある。

だからこそ死神とって今回のことに大した意味などない。

しかし死神にとって気にする部分もある。

「もし仮に吸血種であるお前が人に害を為すのであれば容赦はしない」

吸血種とは血を最も好む種族として有名である。

生血を啜り、力として蓄え、不老不死の存在だと伝承では綴られている。

しかしそれ自体が嘘だとしたらどうなるであろう。

人間は自分達よりも優位に立つ存在を恐れ、他の者達との関わりを抑えるために虚言を作る。

吸血種の全てが生血を好むわけでもないし、不老不死の存在でもない。

確かに生命力の基礎ともいえる血を取り込めば力は増えるが、一時的な効力しか生まない。

「血は好みません」

か細く答える彼女の辛そうな声。

何かしらの過去を背負っているであろうことは察しが付いた。

だからこそそれ以上の深入りはしない、それは蒼にもいえることだから。

辛く、誰にも語りたくない過去が。

もし語るとすればそれは他人に原因が接触、あるいは被害を与え場合。

まだその時期には早い。

だからこそ何も語らず、何も答えず、何もしない。

情報収集すらも無駄であり、相手が動くまでこちらは一切動けない。

後手に回るだけの状況に悔しさを感じながらも、実力不足も理解している。

だが今はそんな状況を我慢するしかない。

何も情報を掴めない相手を闇雲に探し回っても逆に敵へとこちらの情報を与えてしまうかもしれない。

それはさらなる被害を生む結果へと繋がる。

だからこそ今は待つしかないのだ。

「それでは私達はこれで失礼してよろしいでしょうか?」

「構わないだろう。だが監視くらいは我慢しろ」

「分かっています」

死神と同じく危険な吸血種を協会だって野放しにする気は無いだろう。

しかし死神みたいに露骨な監視が付くわけではない。

誰かの視線を感じる。その程度のことが偶に発生するだけ。

それほど気にするほどのことでもないはず。

「それではまたいつか会いましょう」

「いつか、な」

敵から味方へと変わる瞬間。それはこの時であっただろう。

お互いに危害を加えず、協力体制を築くのは意外と難しい。

しかし一度そういう関係になった場合は強固なものへとなる。

去り行く2人を死神はただ黙したまま見送る。

そして戦場の爪跡が残る空港内部を振り返る。

数々の死体に、異常な破壊の跡。

一般人がいたのならば必ず死人が出ていたであろう。

そういったことが無いようにする協会の根回しはさすがというべきである。

敵とはいえ自分が殺した相手に黙祷を捧げ、死神は振り返らず立ち去る。

罪を背負い、罪を忘れず、恨みを買おうとも蒼の所業が止まることはない。

それ相応の覚悟があるから・・・。