Dream01.【Start the next world】



白い、ただ純白で彩られた部屋。何も無く、何も存在することの無い場所。壁の繋ぎ目が見分けつかないほど純白。

その真っ只中に彼は立たされていた。

「・・・・・何処だ?」

この場所に関することを彼は一切知らない。それどころか彼には此処に来るまでの記憶が抜け落ちていた。

「確か街に散歩に出てそれから・・・・・」

その後の記憶が全く出てこない。何かがあった、それは確かなこと。それも自身にとって最大級の出来事であったはず。

だがそれを思い出せない。人為的な感じが受けられる。

『やぁ、来訪者君』

声が響く。部屋中に木霊するように、位置が掴めないように声が耳朶を打つ。男とも女とも取れない中性的な声。誰とも

判別付かず、それ以前に出会ったこともない人物を判別できるはずも無い。

『君は選ばれたんだよ、この悪夢に』

声が何を言っているのか彼には理解できなかった。だがこの場所に自分一人しかいないということは理解できていた。

『簡単なゲームさ。君が此処を無事に抜け出されば君の勝ち。もし君が脱出できなかったら私の勝ち』

「勝ったら俺に何の得があるというんだ?」

『勝ったら命が救われる。負ければ君の命が失われる。シンプルな損得じゃないか』

黙る彼。声が言っていることは嘘ではないだろう。こんな純白な部屋に運び込み何かするのであればすでに出来ていただろう。

例えば彼を殺すことだって造作の無いことだったはず。

『それじゃルールを説明するね。といっても簡単なものさ。この場所には部屋が何個もある。それを武器を使って中にいる

門番を倒して進む。ただそれだけさ』

確かにルールだけを聞けば簡単に思える。だがそれを実際に体感してこそ難易度が決められる。言葉だけで何かを判断せよと

いうのは無理なことである。それが可能だという者は自身を慢心しているだけ。

「ならさっさと武器を寄越せ」

『短気だね、君は』

「早く出たいだけだ」

目的が出来た。ならばその目的を達成するために道具は必要不可欠。自分自身の身体一つで何か出来るのには限界がある。

その限界を引き伸ばすために武器が要る。

『武器は様々。君が欲しいと思うものを想像すると良いよ』

言われて簡単に武器を想像することなど出来るはずがない。選べばそれこそ数多くの武器が頭の中に浮かんでくる。

剣、刀、槍、斧、鈍器、弓、薙刀、それこそ選びきれないほど。

そんな中で彼が選んだのは『銃』

想像を具現化したように手にずっしりとした重みを感じる。眼を開ければ手にはオートマチックの銃が握られていた。

『ふ〜ん、銃か。だけどそれでいいのかい?硬いものには無力だよ、それ』

人間などの皮膚で身を覆っている者に対して銃は威力を行使できる。だが甲殻類などの硬い皮膚で覆われたものに対して

銃弾は弾かれ、威力を失う。それは銃の種類にもよるが彼の持つ銃では到底貫通などできるものではない。

「なら銃弾くらい選ばせろ」

『いいだろう。ただし通常弾を合わせて3種類までだよ』

「徹甲弾と散弾」

迷うことなく発した銃弾の種類。だがそのどちらもが彼の手にする銃にはそぐわない弾丸であった。だが声はあっさりと

それらの弾丸の使用に許可した。

『いいよ、どうせここは君達の常識が通用しない空間。滅茶苦茶な設定だろうが、ここではそれが常識になるんだ』

彼は試しに銃を握り、虚空に狙いを定めて撃つ。銃声が部屋に響き、木霊する。思いのほか反動が強く驚きを隠せない彼。

予想していた嘲りの声は聞こえてこなかった。どうやら声との接触はもう終わっているようだ。

「生き延びるために戦えか。・・・・馬鹿馬鹿しい」

銃をきつく握り締めて彼は歩を進める。だがこの部屋は白一色。何処へも移動することの出来ない密室である。だから

歩き始めてもすぐに止まってしまう。

しかしそんな部屋に異変が起きた。純白の壁に染みが出来るように扉が作り上げられる。常識ではありえない出来事。

『言い忘れたけど時間制限があるよ。7日以内に脱出できなければ君は死ぬから肝に銘じて置くように。それじゃ健闘を祈るよ』

声はもう聞こえない。本当の意味で彼は一人となってしまった。だが気になどしない。そんな暇があるのなら他にすることが

あるのだから。扉に取り付けられている取っ手に手を掛けて彼は先へと進む。

悪夢は彼にとっての現実となり、危険で死を伴うものへと変わっていく・・・・・・・・・。


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