Dream02.【First trial encount】


突如として現れた扉に彼は迷うことなく歩み寄り、開ける。白一色の部屋だった場所から一歩進むだけで一変した。

白から黒へ。純白から漆黒へと色彩が変化する。何も見えぬ闇が視界を占領する。右手を自身の前の突き出して、

慎重に進む。時間に対する感覚はすでに麻痺としており、歩き始めてどれ位経ったのかが分からない。

この場所では時間が重要となるのに。

地面に足が付いているという感覚はあるのだが実感が沸かない。平衡感覚も曖昧、それは同時に感覚すらも曖昧にする。

だがその前に彼の右手が何かに当たる。それは硬く冷たい。恐らく壁なのだろう。行き着いた先が壁あることに彼は憤りを

隠さずにその壁を殴りつける。それと同時に壁は殴られた力に逆らわずにそのまま倒れる。

その先に待つのは甲冑を着込んだ人間。部屋は相変わらず黒く染められているが頭上からの光によって甲冑のみが照らされている。

だから相手を見失う可能性は無い。しかしそれは彼も同じ。彼も頭上から照らされ相手からは丸見えである。

甲冑が金属音を鳴らしながら動く。それに合わせて光も動く。

彼は銃を両手で握り締めて照準を合わせる。甲冑の動きに合わせて彼の照準も動く。

撃ち、音が響き、硝煙が舞う。

銃弾は甲冑の頭部へと迫り。横を通り過ぎていく。所詮銃を始めて持った素人。最初から簡単に命中するはずも無い。

銃弾が顔のすぐ横を通り過ぎたというのに甲冑は止まる事もせずに歩み、駆け出す。

恐怖に押し潰されそうになりながら彼は引き金を引き続ける。外れることが多かったが、数撃てば当たる。だが甲冑に

虚しく弾かれ、ダメージは皆無に等しいだろう。

甲冑の射程内に入った。槍が突き出され、彼を貫かんと迫る。死が彼を襲う。必死の思いで彼は身を捻り、槍の射線上から

何とか逃れる。背を抜けて全速力で駆け出そうという衝動に駆られるが、それを思い留めて後ろに飛び退く。

背を向けたらそのまま貫かれるかもしれない。そんなことが思考を過ぎったから。

弾丸を変える。通常弾から徹甲弾へと。弾装を変える作業に手間取り、再び槍が突き出される。ずっと甲冑を見続け、

2回目ということで先程より少しは冷静に見極めることが出来た。だが恐怖心が無くなっている訳ではない。

最初の突きから冷や汗が出続けている。2撃目を避け、震える手で何とか装弾を完了する。

どちらも相手を自分の獲物の射程に捉えている。動作はほぼ同時。だが槍は引く動作によってタイムラグがあり、出遅れる

結果となる。

銃声が響き、鉄の破片が散り、穴を穿つ。

左胸に命中した徹甲弾は貫通し、闇へと消えてゆく。甲冑の動きが止まる。彼が空けた穴から血が流れ出し、甲冑を濡らす。

だが再び甲冑がぎこちなく動き出す。一発当たったことで安心していた彼の心が再び恐怖に染まる。

「うわぁぁぁーーー!!!!」

絶叫に近い声を上げながら反動のことも忘れ、引き金を引き続ける。明後日の方向に飛んでいくものもあるが、距離が近いために

撃ち出された殆どの弾丸が甲冑を貫いていく。恐怖で瞼を閉じている彼は甲冑の動きが止まったことに気づくことなく、

弾丸を撃ち出し続ける。そして盛大な音を鳴らして甲冑は地面に倒れる。その音で彼は撃つことを止めて瞼を開ける。

瞳に映し出されたのは血の泉。甲冑から流れ出した血が黒い地面を染め上げ、頭上からの照明がボロボロの甲冑と血を

照らし出す。

「・・・ぁ・・ぁ・・・ぅ」

人を殺した。それは彼にとって初めての経験であることは間違いない。気持ちのいいものを感じるものならば呻き、口を

手で押さえはしない。彼の心は混乱、恐怖、罪悪感によって塗り潰されている。

喉元から胃に入っていたものが競りあがり、押さえていた手を無視して外へと吐き出される。

血に異物が混ざる。自然と涙が出てくる。呻き声が洩れる。

彼の心が落ち着くのはもう少し後になりそうである。

だが時間は刻一刻と過ぎ、彼の命の期限を削る。


   残り時間【166時間48分】