Dream10.【Last extreme battle】



本来ならば2人で1人を速攻で殲滅し、残りを倒すというのがもっとも効果的で効率のいい方法であった。

だが1人に向かう最中に彼の進路を塞ぐように両手に盾を持った敵が立ち塞がる。

そしてもう一方の両手に剣を携えた敵は彼女に対峙していた。

つまり一斉攻撃を与えることは事実上不可能となってしまった。

だが殺さなければ自分達が死んでしまう。

たとえ1人であろうとも彼は負けることを選ぶことは出来ない。

敗北とは死であり、勝利とは生還を意味する。

生きる道は激しく険しく、死という転落は意外なほどに簡単。

勝利を勝ち取るために彼は銃を構え、発砲。

内蔵されているのは徹甲弾。相手が何を装備していても貫けぬものはないはずの弾丸。

だがそれは敵の盾に呆気なく弾き返された。

あまりにも予想外の出来事に彼の思考は一瞬の停滞を生ませ、敵が隙を見逃さずに攻撃を仕掛ける。

思考は一気に加速し、彼の身体が合わせるように動き出す。

横殴りによる盾の打撃。

致命傷にはならずとも骨が折れるであろうほどの一撃を彼は膝を曲げ、しゃがんで避ける。

しかし真正面から来たる蹴りを避けることは出来なかった。

咄嗟に曲げた膝を伸ばして後ろに飛んだことにより衝撃を和らげることに成功したといっても彼にとっての攻撃が

効果を発揮できないというのは精神的に辛いものがある。

蹴りつけられた腹部が鈍痛を生む。

集中力を削られるというわけではないが、やはり気になってしまう。

意識を目の前の敵に向けることで痛みを意識しないように努める。

人間、何かに没頭すれば他の事を意識しないで済むこともある。

敵は悠然と構え、自ら彼に襲いかかろうという気はない様である。

今までなら彼にとってこれほどの好機はないはずであった。

だが現状を把握すれば好機でもなく、何一つ有効打を与えられる行為がない。

銃が効かないのだ。

彼にとって唯一の武器である銃が、目の前にいる敵には効果を発揮しないのだ。

何も一発撃っただけで分かったわけじゃない。

立ち尽くす敵に何発も撃ち込んだ。

だがそのどれもが敵の所持している盾によって防がれる。

まるで銃弾の射線が分かっているかのように。

「どうすればいいというんだよ」

何一つとして考えが浮かばない。

思考が延々と巡り、最善の方法を生み出そうとしている。

何も出来ず佇む彼、彼の行動を待つ敵。

先に動いたのは痺れを切らした敵の方であった。

盾の形状は卵型。大きさは肩程度まであり、下にいくにつれて段々細くなっている。

そしてその先端は金属により補強され、鋭利な刃物と化していた。

刺されれば一溜まりもない刃がまさしく彼に向かって突っ込んできていた。

さながらサイのようである。

攻撃をしてくるのであれば何処かに隙が生まれるはずである。

だが目の前の敵は盾という殻に包まれ、銃弾が通れる隙間が見当たらない。

それでいて敵は視界を自ら塞いでいるというのにしっかりと彼のことを捉えていた。

敵の進行方向から身体を逸らし、直撃コースから脱出する。

だが敵はコースを修正し、確かに彼を捉えるコースを選んでいた。

敵の速度は彼が反応できないほどではなかった。

だから直前で横っ飛びに移動することで突進を避けた。

同時に銃を発砲。

隙間を狙った銃撃は素早く回った盾が進行を妨げる。

敵だって鉄壁というわけではない。

盾によって守られているのは前面のみ。

つまり背中は丸裸と同じである。

狙うのならばそこしかない。

だがそれは敵だって把握しているはず。

それに戦いのおいて敵に背中を見せることは大きな隙となる。

そんな愚かなことを敵がするとは思えない。

何とかして敵に隙を作らなければ彼の勝利はありえない。

敵の攻撃パターンは決まっていた。

横殴りの打撃か、突進、そしてまだ確認してはいないが盾の直線的降下。

そのどれもが一撃で彼を戦闘不能に陥れるだけの威力を秘めている。

だがそのどれもに当てはまる事柄がある。

それは全てに共通して動きが大きいということ。

避けることは難しくない。

連続となれば話は変わるが、あれだけの盾を振り回し続けるのは体力や腕力上無理であろう。

だが少しのミスが命取りとなるのは戦いにおいて常識。

何より、彼は1人で勝つことなど出来ない。

剣戟の応酬が続いているあちらの彼女と一緒に此処から脱出することにこそ意味がある。

一撃、一撃が大振りであるが鉄壁の防御を有する敵に彼は無傷で勝利することを諦める。

最後の賭けとして彼はもっとも危険な策に自ら飛び込んでいく。

勝利の行方いはまだ分からない・・・・・・。