Epilogue.【Relieve Gospel】



漆黒に染め上げられていた視界に微かな白い光が零れ落ちてきた。

視界だけではない、何も聞こえなかった聴覚にも微かに音が流れてくる。

血の臭いがこびり付いていた嗅覚も、今は違う匂いを感じられる。

全てが戻ってきている気がした。

「ぐっ・・・・・」

身体中に走る痛いに呻き声を上げながら彼を重い瞼を強引に持ち上げる。

最初に入ってきたのは白い天井。

だがカーテンが締め切っているために部屋の中は薄暗く周りのものが良く見えない。

痛みに身動ぎをしようにも至る所を固められている為に動けもしない。

視線だけを動かしてとりあえず身近なものから探る。

自分が横になっているのは白いベッド。

強い消毒薬の匂い。

身体中に巻かれている包帯と周りに置かれている医療器具。

これだけの現状証拠が揃っているからこそ、此処が何処かの病院であることは容易に推測できる。

なら次に考えるのは何故この場所にいて、こんな怪我をしているのか。

いつも通りに休日に外出して、ぶらぶらとしていた。

歩道を歩いていたら派手なブレーキ音が聞こえて、一台のトラックが突っ込んできたはず。

そこから後の記憶は彼には無い。

意識が飛んだのかどうか推測は出来ないが、あれだけの速度で突っ込んできたトラックに轢かれて

よく生きていたものだと彼自身、自分の悪運の強さに感心していた。

だが彼は一つの疑問が思考の中に流れる。

トラックに轢かれて、病院に担ぎ込まれる間に何かがあったような気がしてならないのだ。

何か重大なことが起こり、してはいけない行為をしてしまい、何か大切な人を失くしてしまった気がする。

思い出そうとしても何も出てこない。

まるで記憶に空白部分が強引に入れられたような奇妙な感覚。

心にぽっかりと穴が空いたように、彼は物足りなさを抱えながら再び瞼を閉じる。

後姿しか出てこない、大切な相棒を瞳に映しながら彼は眠りに付く。

激動の中では全く感じられなかった、安心感を満喫しながら。

そしていつか会えると信じて、彼は休息に入る。

いつか本当に再会できるまで彼の物語は停滞する・・・・・・・。


   〜He Side END〜