Dream01.【Start the next world 】


白い、辺りには何も無く、物体も無くただ純白に寄って彩られた部屋。

寂しく虚無に包まれた部屋で彼女は目を覚ました。

「・・・・・」

キョロキョロと寝ぼけ眼で辺りを見渡す。それと同時に意識は覚醒し、仰向けに倒れていた自身を瞬時に立ち上がらせ

油断もなく、辺りを警戒する。

敵も何も無い空間。

だが武術に精通している彼女には勘というものが働く。

誰かがいるという証明を。

『やっぱり君には分かるか』

声だけが空間に響く。果てしなく木霊し、果てしなく反射する。全周囲からの音は発生源を特定させることを防いでいた。

男とも女とも取れる中世的な声。姿を現せないことに不快感を示しながらも彼女は次の言葉を待つ。

『何もいわないんだね、拍子抜けだよ』

「貴様と会話する気は微塵も無い」

そこらの男性よりも男らしい物言い。それが彼女の素の話し方なのだろう。声の主は一瞬唖然としたかのように沈黙する。

だが沈黙を破ると苦笑しながら言葉を放つ。

『いや実に見掛けによらない言動だね。面白いよ』

馬鹿にしているとしか取れない言葉。さらに眉間の皺を寄せる。目の前に声の主がいるのならば迷わず顔面を

殴り飛ばしているだろう。だがいないものに対して暴力を振るえる筈も無い。

『さて本題に入ろうか。君も何故自分が此処にいるのか知りたいだろ?』

「当たり前だ。内容は的確に話せ」

苛立ちは募るばかり。それを楽しむかのように声の主は焦らしながら話す。

『簡単にいえば此処は君の悪夢。私にとってはゲームのようなものさ。君が脱出できるのか、私の選んだ手駒が勝つのか』

「無駄なことに付き合う気は無い」

『君に拒否権は無いのだよ。全ての決定権は僕にあるんだからね』

この部屋に運ばれたのならば、その間に奴は何だって出来たのだろう。そうなれば自分にそれを防ぐ術は無かったはず。

つまり今の状況で自分自身で何かを解決することは出来ない状況なのだ。

『さてルールを説明しようか。この場所には何個もの部屋がある。部屋の中には僕の用意した門番がいるから君はそれを

武器を使って撃退する。何処かの部屋に正解の部屋があるからそこに辿り着ければ君の勝ち。もしその前に死ねば僕の勝ち』

「ならばさっさと武器を寄越せ」

『同じようなことをいうのだね、君も』

多少つまらなそうに応じる声の主に彼女は引っ掛かりを覚える。他にも誰かが此処にいるのか、それとも以前に誰かが

いたのか。だがそれを聞く気は無い。適当にはぐらかされるのがオチだろう。

『武器は君の想像力によって決まる。欲しいものを思い描いてみな。それが君の武器となるよ』

声の主を信じることに苦痛を感じながらも今は他に出来ることがなく、仕方なく従うことにする。

想像するのは自分の実力を一番発揮できるもの。鍛錬で常に使用し、自分の相棒だと信じれるもの。想像することは

簡単だった。それと同時に右手に冷たい感触といつものより重い質量を感じられる。

『へぇ、槍か。武道の心得があるとは思ったけど剣道じゃなかったんだね』

声を無視して彼女は槍を一振りする。練習用の模擬とは違い、先端に殺傷力のある刃がある為にいつもより重く感じられる。

それと同時に彼女に覚悟が宿る。武器を持つということは人を傷つけるということ。武器は所詮殺人の為の道具。

誰かを守るための道具などは所詮逃げの口実。守るということは誰かを傷つけるということ。正当防衛とは誰かを殺すと

いうこと。結局は誰かを傷つける、殺すことしか出来ない道具なのだ。

だから彼女はその覚悟を心に宿す。

『制限時間は1週間。それ以内に脱出できなければ死ぬからね』

あちら側に有利な展開となる。だが彼女にとってそれは少々のハンデにしかならない。

声の主の度肝を抜いてやればいい。ただそれだけを思えばいいのだ。

一歩を踏み締めると唐突に気配が消えた。どうやら干渉はすでに終わったらしい。耳障りな声を聞かなくていいと清々しながら

彼女はさらに歩みを進める。

真っ白な壁の一部が黒く染まり、一つの扉を形成する。

「私を閉じ込めたことを後悔させてやる」

取っ手に手を掛けて、彼女はステージへと移動する。技量も覚悟も出来ている彼女に生半可なことは通じない。

だが彼女を止める事ができる者はこの空間にいるかもしれない。

後に戦友と呼べる彼の存在が彼女に影響を与える。


   【残り時間168時間】