Dream11.【bullet and blade】 対峙が続く敵と彼女の間で殺し合いは中々進展しない。 だがそれは彼の方も同じであるはず。 先程まで鳴り続いていた発砲音が今では全く聞こえない。 もし戦いが終わっているのであれば彼のことである、傷のことも考えずに援護しにくるはず。 だが彼からの援護は全く無い。 つまり苦戦しており、勝機への糸口を見つけ出せぬ状態にあると推測できる。 だからこそ彼女が勝たねばならないという使命感が生まれる。 彼女はすでに勝機の糸口は掴めていた。 相手の二刀流に対して彼女が行うべきことも見出せている。 そして動かぬ状態から抜け出すように彼女が走り出す。 均衡状態から抜け出すことは相手に動揺や焦りを生み出す効果がある。 だがそれは相手に余裕が全く無い状態でしか生まれない効果。 現に彼女の敵は全く動揺することなく、微かに嘲笑しながら彼女が近づくのを待っていた。 敵にしてみれば同じことを繰り返す彼女が愚かで仕方がなかった。 彼女の突きを見切ることは容易く、片手で弾いた後にもう片方で彼女を斬る。 それが敵の戦法。 彼女に足りないのは純粋な力。 重さの無い攻撃は簡単に弾けるし、蓄積されるダメージはないに等しい。 それは女性の誰しもが悩む問題である。 ならば力の無さをカバーする方法は無いのか。 それを彼女は今から実践する。 今までと変わらない突きを繰り出す、しかしそれは予想通り弾かれた。 その隙を付いて敵の斬撃が彼女を襲う。 だがそれよりも早く彼女の攻撃が敵に届く。 弾き飛ばされる力に逆らわず槍は円を描き、反対側の石突が敵の側頭部を襲う。 まさしくそれは完璧なる奇襲である。 油断していた敵、死角からの攻撃、予想の出来ない動き、この三つが重なったことによって奇襲は生まれる。 側頭部を打たれた敵は体勢を横に倒しながら、けれども倒れることはしない。 だが彼女の攻勢は止まらない。いや、止めてはいけない。 当たった反動を利用してさらに槍の旋廻速度を上げていく。 石突、穂先、時には蹴り、拳を利用して連打を続ける。 止まってしまっては隙を見せてしまう。 力の無い女性が力のある者に勝つには速度を重視した攻撃を行わなければいけない。 幸いにも敵は防具らしいものは身に着けておらず、彼女の攻撃は軽くても通じる。 彼女も血塗れ、敵も血塗れ。 条件は対等になったと思われがちだが、彼女が不利であることに変わりはない。 血を流している時間は彼女の方が長いのだから。 彼女は一旦攻めを止めて後退する。 「これで決める」 敵の動きを彼女は大体であるが掴みかけていた。 これ以上正攻法で攻めていても時間が掛かってしまい、彼女のほうが負ける確率が高くなってしまう。 だから博打を打つしかない。 敵にとっては愚かでしかない突撃。 だが彼女はある罠を張っていた。 その意味を理解できない敵は最初に突き出された穂先を今までどおり弾き飛ばす。 だが彼女の突撃は止まってなどいない。 むしろさらに加速して敵の剣の先、つまり身体の触れ合う距離まで接近していた。 そして全体重と今までの加速力を乗せた右肘が敵の心臓に突き刺さる。 嫌な手応えと、複数の骨が折れる嫌な音を鳴り響かせて敵は吹き飛ぶ。 明らかなる致命傷。 荒い息をつきながら彼女は終わったことに安堵する。 そして思い出したように彼の方に視線を向ける。 だがそちらの戦いは彼女よりも早く終わっていたようで彼女がすることは何も無かった。 お互いの無事を祝うように笑みを浮かべながら2人は歩みだす。 それが失策であることに気づかずに、脅威はさらなる歩を踏んでいた・・・・。 |