Dream05.【solitude bloom】



自分以外の人間などこの場所には誰もいないと思っていた。

だがそれは自分達の間違いであることに2人はようやく気づかされた。

目の前にいる自分と同じ境遇にいる人物と出会うことによって。

「お前は誰だ?」

押し倒したまま尋ねる彼女の声は少しばかり震えていた。余程今の状況が嬉しいのだろうか、口元は常に笑みが

作れている。

「それはこっちの台詞だ」

彼の顔にも笑みが零れている。会話の出来る相手がいるということがこれほど嬉しいなど普段なら感じることも無い。

人間は孤独の中で生きていけない。食事を取り、睡眠を取れば命を保つことが出来る。

だが人間はそれほど簡単に生きられる種族でもない。一人でいることに耐えることが出来ないのだ。

孤独で過すことが気が楽でいいという人もいるだろう。しかしそれは極少数の人間のこと。

多人数と過ごし生活することこそが人間が日常として捉える事ができるもの。

身体は命、心は魂。

同じようで違う言葉。命と魂の二つが揃ってこそ人間が生きることが出来る。

孤独に耐えられない生物は必然的に死への道を進む。

孤独に耐えられる生物は規則的で変化の無い生活を進む。

そして2人がいるこの場所は外観的にも変化が全くない不可思議な所。

心が萎えていくのが分かるほどに孤独で寂しくて生きる気力が失われていく。

だから自分以外の、自分を殺しに来るもの以外の人間と遭遇できたことが純粋に嬉しいのだ。

「誰だとかは後にしよう。お前は出口を知っているか?」

「知っていたらいつまでもこんな場所にいない。というか退け」

久しぶりの他人との会話。それは楽しいものでは決してないはず。

それなのに2人の顔から微笑が消えることは無い。

彼に敵意が無いことを感じた彼女は素直に彼の上から退く。その際に彼の武器を押収することを忘れない。

男と女の単純な力比べでは彼女が勝てるはずが無いから。

「それじゃもう一つ聞く。どうやってこの場所に来た」

「それについても知らない。意識を取り戻して気づいたらこの場所にいた。此処まで運ばれた記憶も無い」

2人にとって一番の謎が連れて来られた経緯。直前の記憶も無く、自分自身に誰かが恨みを持っているという線もある。

だがそれに関しても心当たりなどない。これまでに殺されそうなほどの恨みを抱かれる出来事も無かったはず。

直前の記憶が全く残っていないというのも疑問が残る。

「貴方はこれからも一人で進むのか?」

彼の顔から微笑が消え、真面目な表情を作り出す。彼一人で進むのに問題は何一つ無い。

危険は今までどおりで何も変わらずに先へと進むか、死ぬだろう。

「お前が私と一緒に行動することを拒否するのであればな」

彼女の表情も同じように微笑みは消えている。彼女にとってもこれ以上の危険を冒して一人で行動する気は無い。

だが相手が拒否するのであれば孤独に戦い続けることを継続しないといけない。

誰かを縛り付ける行為を彼女は好まない。

「なら次の部屋に移動しよう。俺もこれ以上一人で行動するのは御免だ」

「助かる。素直に礼を言わせて貰う」

銃を手渡す彼女の手を握り、互いに握手を交じえる。誰もいない場所での話せる相手は例え素性が知れずとも

今までの誰よりも信用できる仲間となる。

裏切り、見捨てるなどの否定的な考えはあえて考えない。

折角出会えた同じ境遇の者を疑いたくは無いのだ。

この場所には他にも仲間がいるかもしれない。そんな希望が芽生える。

だが逆にもう他の者はいないのではないだろうかという絶望も生まれてくる。

希望が潰れれば絶望が残るのは必然。その逆も然り。

出会いは希望を示し、別れは絶望を意味する。

2人は希望を手にし、次への扉へと足並みを揃えて進む。

戦闘は楽になるであろう。今までの敵は全て1人で出てきたのだから。

だがもし、もし敵が複数で現れたらどうなるであろう。

それは今まで以上の厳しい戦いとなる。

無傷で来れた今までが異常なだけだった。

2人は共に死地を切り抜けて進めるだろうか。

答えなどあるはずないのに、人間は答えを求めてしまう。

未来とは決まっていないのに・・・。


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