Dream06.【Together from death】



2人が共同戦線を張った最初の戦い。それは楽な戦闘とは到底いえないものであった。

扉を潜った先に待っている敵の数、目視だけで5人。

今まで一対一の戦いであっただけに2人にとって意外な展開であった。

数の有利が今までに無かったために、2人にとって今回の戦いは不利であり、別の意味で初めての戦い。

敵が持っている武器は剣が3人、斧が1人、槍が1人。

遠距離からの攻撃を持つものがいないだけでも幸運だと思いたかった。

「私が前衛で敵を迎え撃つ、お前は後方で援護してくれ」

「間違ってお前に当たっても怨むなよ」

集団戦になれば混戦となり、狙いをつけることが困難となる。

銃は当然ながら一度撃てば方向を変えずに直進する。

直進した場所に彼女がいないという保障は何処にもない。

だが彼女は笑って敵へと突っ込んでいった。それは彼を信頼しているという意思表示。

そんな彼女の期待を裏切るわけにも彼は苦笑しながら彼女の背を確認する。

彼女の突撃に合わせて敵も動き出す。

剣を持った敵が素早く動き、その後ろに槍を持った敵が続く。

斧を持った敵は歩く程度の速度で進むだけ。ただでさえ重い武器を持っているのに重鎧なのがさらに動きを

鈍らせているのだろう。

彼女が左右に動く前に彼は発砲する。弾丸は徹甲弾であり、鎧などを関係無しに相手に突き刺さる凶器。

命中さえすれば敵など脅威ではない。だが命中しなければ何の意味も無い凶器。

4発撃った内の1発が剣を持った敵の頭部に命中。

兜を砕き、脳髄を貫いた弾丸は血飛沫を伴って貫通する。当然ながら敵は死亡。

平行に並んでいた右側を失ったことで敵の足並みが崩れる。

敵の間合いに踏み込む前に彼女は脚力を精一杯使い、敵の真横へ移動。

急制動を掛け、引き絞った腕を前方へと解き放つ。

放たれた槍は鋼鉄の鎧を貫き、心臓を穿つ。

素早く槍を引き抜くと隙を見て攻撃してきた槍を持った敵に対処する。

突き出された穂先を寸前で避け、鮮血を飛ばしながら槍を旋回させる。

遠心力の乗った槍は甲高い音を響かせながら敵を弾く。

その間が彼女にとって致命的な隙にも関わらず残っている剣を持った敵は何一つ手を出さなかった。

出せなかったというほうが正しいか。

銃を乱射しながら彼が敵を牽制していたのだ。

彼女を気にしながら撃っているので精度はそれほど良くない。

それでも数発は敵を捉える。だがどれも致命傷には遠い。

邪魔者であると判断した剣を持つ敵は標的を彼へと絞る。

迫り来る敵に彼は銃を向ける。だが撃つことが出来なかった。

何故なら敵の後ろでは彼女が戦っているのだから。

仕方なく彼は銃を降ろす。その間に敵が剣の間合いを手に入れる。

横薙ぎの一撃を彼は最初の頃のような狼狽を見せずに、ギリギリまで見極めて避ける。

体制を低くして上空を過ぎ去る剣を見ることなく、彼は床に手を付きながら綺麗に相手の足を払う。

真横に足を蹴られた敵は側転をするように回転しながら地面へと激突する。

地面と鎧の激しい協奏曲が部屋に木霊する。それに耳を貸さずに彼は地面と接地している兜に銃口を当てる。

外しようが無い距離であり、絶対に彼女に当たることの無いチャンス。

迷うことなく彼は引き金を引く。

曇った音を響かせながら無慈悲に敵の命を奪う。すでに罪悪感も何も感じない。

ただ後ろめたさだけが残る。

それを振り払うように頭を振り、彼は彼女のほうに目を向ける。

相手の槍を自身の槍で絡め、弾き飛ばしたのが丁度視界に映った。

そのまま突き出した槍が兜の隙間を通り、顔面へと突き刺さる。

痙攣する敵に構わず、彼女はさらに力を入れ槍を頭部の最深部まで押す。

痙攣すらも止め、敵の身体は朽ちる。

同時に彼女は弾けたように跳ぶ。

今まで忘れいた斧を持った敵が斧を振り下ろしていたから。

轟音を立てて地面に激突した斧は深々と地面に食い込んでいた。

さすがにこれには2人も冷や汗を浮かべる。

「私の槍では恐らくあいつの鎧を貫くことは無理だろう」

後退を繰り返して彼女は彼の横に並ぶ。相変わらず動きは遅いので敵との距離は大分離れた。

「だからといってあの巨体だぞ。銃弾を何発喰らって倒れるんだよ」

重鎧で包まれた身体は巨人といってもいいほど大きい。人間の3倍くらいはあるだろうか。

胴体に幾ら弾丸を叩き込んでも早々倒れてはくれないだろう。

狙うならばやはり顔であろう。

「私が引き付けるから、後はお前に任せる」

「行き当たりばったりな」

「計画も何も無いだろ。此処にいる時点で」

溜息を吐く彼に正論を言う彼女。それに計画などを時間を掛けて立てるほど敵も猶予を与えてくれないだろう。

「分かったよ、サポートするさ」

「サポートじゃない。お前がメインなんだ」

言うや否や彼女は再び駆け出す。慌てて彼も彼女のを追うように駆け出す。

敵は自分達よりも動きは遅い。だから速さで相手を撹乱し、隙を付いて何のとか顔に攻撃を集中させる。

これが彼女が考えている即興の作戦であった。

それが彼に伝わっているかどうかは分からない。せめて彼も同じことを考えていることを信じるしかない。

突撃から突きへと変わる彼女のいつものスタイルで敵を攻撃する。

穂先は虚しく甲高い音を立てて鎧によって弾かれる。

弾かれた力を利用して一回転しながら殴りつける。

敵は多少よろめくもダメージを食らったような感じは微塵もしない。

そして再び斧が振るわれる。その速度だけは動きとは段違いに速い。

横薙ぎに振るわれた一撃を後退して下がる彼女を剛風が叩く。

風に押されただけで彼女はよろめいてしまった。それほどまでに斧の振るわれる速度が恐ろしく速い。

さらに体制を崩している彼女に今までとは打って変わって素早い動きで巨体をぶつけようとする。

いかにタックルであろうとも鎧を着込んだ相手の一撃は比べ物にならないくらいに威力がある。

対する彼女は生身。衣服しか纏っていない彼女が喰らってはひとたまりも無いだろう。

喰らうことを覚悟した彼女の肩を何か重いものが圧し掛かったような感覚が襲う。

そして何かが前へと跳ぶ。

それが彼。意表を付かれた敵は今の動きを止める事ができない。

「もらったぁ!」

敵の巨体が迫っているというのに彼は怖れる気配は無い。最初の頃とは打って変わって恐怖を感じていない。

敵の目線まで跳んだ彼はそのまま銃を敵の顔へと向け、乱射。

彼の腕前がいかに下手くそであろうとも距離が近い。外すはずも無い。

銃から吐き出された無数の徹甲弾は障害を関係無しに敵の顔面へと突き刺さる。

穴だらけにされボロボロの頭部に生きることが出来るはずも無い。

前のめりに倒れる敵に彼女は勝利を確信した。それは彼も同じである。

だが彼にとって小さな油断は足元を掬われる結果となった。

あれだけの高さまで跳んだのだから着地に気を使わないといけない。彼はそれを失念していた。

結果は当然ながら着地に失敗。

背中から落ちそうになったが、上半身を強引に捻って肩から何とか激突した。

受け身を取ったとはいえ、やはり痛い。

「馬鹿だな、お前は」

痛みに顔を顰める彼に彼女は頬を引き攣らせ、笑いを堪えながら手を差し伸べる。

「その顔で言われると腹が立つな」

まだ痛みが尾を引いて彼は表情を変えることが出来ない。それだけ余裕が無いという証拠。

だが彼は彼女の手を握る。

協力者同士の握手。それは裏切ることの無い誓いとなるだろう。

これから先も、出た後も。

未来永劫誓いを忘れぬように。

心に刻み込めるように2人は誓い合う。

お互いを裏切らないという絶対的な約束を・・・・。


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