Dream07.【Enemy who compounds】



この場所での不可思議な点は壁などの色彩もそうだが、敵の死体が数分で消えてしまうということである。

色素が次第に薄れていき、存在自体が消えていく。

最後には血痕すらも消え去り、何も残らない。

本当に自分が殺したのか曖昧に感じてくる。

だが生々しい感触が手に残る。

それが自分が他人を殺した証明。

「しかしいきなり敵の数が増えたな」

死体が消え去り、感傷に浸りながら彼女は彼に話しかける。

「貴方の所も敵は1人だけだったのか?」

彼の話に微妙に敬語が混ざるのは彼女の雰囲気が年上に感じられるから。

戦闘などの場面では口調に気を使う余裕が無くなる。

必然的に荒々しくなり、お前呼ばわりしてしまう。

「そうだ、1対1だからこそ今まで無傷で来られたようなものだ」

対する彼女は全く女性らしい言葉遣いではない。

男よりも力強く、威圧感を感じさせられる口調。

口調だけで性別を判断するのならば間違いなく男性と十人中十人が答えるだろう。

だが声音は凛とした綺麗な音を奏でる。

「こっちもだな。最初の時に複数体で襲われていたら間違いなく死んでいるだろうな」

相手を傷つけることを恐れ、相手を殺すことを否定していた最初。

倒した後に混乱したあの時。もう1人いたら死んでいた自分。

今ならば客観的にあのときのことを分析できる。

余裕が出来た。人を殺すことに慣れた。日常では味わえないことを体験できた。

どれも2人が望んでいない思い。

神に見放された。

神など信じていない2人であっても一度は絶対に考えてしまう愚かな思考。

考え、だがその後には虚しさだけが残ってしまう。

希望など見えず、絶望が段々と深く根付いてしまう。

だが根が最深部まで届く前に2人は出会えた。

それがせめてもの救い。

絶望に染まりきってしまったら戦うだけの気力が出てこないだろう。

救いがあり、希望が少しだけでも見えたのだから戦える。

覚悟が再び芽生える。

「これから先は常に複数体だろうな」

「こっちが戦力増強すればあっちも増えるか。嫌な趣向だな」

吐き捨てるように彼女が呟く。それに彼も同調する。

確実に出れると信じることは出来ない。

反対に確実に出られないとも言い切れない。

微妙な狭間で可能性は揺れている。

次からは本気。そういう言葉を人間は簡単に使ってしまう。

なら今までは手を抜いていたのか。そう尋ねられたら何も返せない。

常に本気で挑んでこそ結果が見えてくる。

だから次からは本気という言葉は間違っている。

2人にそんな言葉を投げ掛ければ激怒することだろう。

生と死との間で動き回っている2人は常に生という場所にいようと本気で挑んでいる。

死という場所に一度でも立ってしまえばそれは終わりを意味する。

「とにかくこっちの戦術は先程と同じだ。私が前線で戦い、お前は後方で援護する」

「時に相手の隙を作るために俺が前線に立ち、貴方が援護する」

即興のコンビネーションで何処までいけるか分からない。

だがやらないといけないのだ。

此処から意地でも出る為に。

次なる扉へと手を掛け、戦闘へと赴く。

生を掴むか、死へと旅立ってしまうか、それは2人の実力と運次第。

時間は流れ、それは2人の命の時間を減らしていることを意味する。

忘れてはならない。この場所は有限で縛られていることに・・・・・・。


  残り時間【97時間27分】