Dream08.【violent dance with beast】


果ての無い戦い。

いつ終わるのか分からず、戦い続け、殺し続けて進む。

後退はありえない。

前進のみで戦場を駆け抜ける。

時間を掛けられない。

時間が無くなっていくことは死へと近づいていることと同義。

傷を負っても前進。

たとえ勝てないと思った相手にも怯むことなく戦い前進する。

1人で挑み、無理だと感じたら2人で挑む。

それが2人の戦い方。

お互いがお互いの動きを感じ、フォローし合う。

だからこそあれ以降進み、まだ死ぬことなく前進し続けられている。

だが心も身体もボロボロであった。

動けないほどではないが、精神的疲労はピークに達し、身体も至る所に傷跡が目立つ。

「次の扉を開けるぞ。準備は良いか?」

先頭に立つのは彼女。

近接に特化された彼女の動きは急な自体にも対処できる。

「まだ大丈夫。あと2部屋くらいならいける」

地面を踏み付けながら彼は自身の体力を推し量る。

後衛として前衛を援護する立場の彼は最初の頃から大分成長した。

実戦とは練習で学べないことを教え、効率よく色々なことを学ばせてくれる。

彼女が開け放った扉。

その先には相変わらず何もなく白い世界が広がる。

「今回は動物か」

彼女の視線の先には黒い野犬が唸り声を響かせながら威嚇している。

今までが人間相手だっただけに気分的には楽になったと感じられていた。

だが人間と動物の違いは一体なんなのだろう。

命があり、身体があり、知能がある。

姿が違うだけで扱いまでもが変わってしまう。

それが人間なのだろう。

人間を殺すことに抵抗を感じても、動物を殺すことに抵抗を覚えない者が殆どだろう。

それは2人も同じなのだろう。

今まで罪悪感を感じていたが動物を殺すことに人間ほどの罪悪感を感じないと思っていた。

「行くぞ!」

彼女がいつも通りに最初に飛び出す。

そして彼は動かずに標的に狙いを絞る。

だが彼は最初から危惧していたことがあった。

今回の野犬は今までよりも身体が小さく弾丸が命中し難い。

さらに動きが今までの人間よりも速く狙いも付け難い。

彼にとっては一番難敵とされるだろう。

撃つ、撃つ、撃つ、撃つ。

だがそのどれもが野犬を捉えることが出来なかった。

それに加えて野犬の数である。

今回は初の二桁という大台に乗ってしまった。

全部で12匹。

2人で相手にするにはあまりにも多すぎる数である。

野犬は元々狼を基本とする動物。

殺傷能力こそそれほど高くないがチームワークという点において2人を悠に追い抜いている。

人間じゃないからと気を緩めていては殺られる。

飛び掛ってくる野犬の口内に銃を突っ込み発砲。

くぐもった音を響かせ命を奪う。

だがその間に死角からもう一匹が飛びかかり彼の左足に噛み付く。

「ぐっ!?」

痛みに我を忘れそうになるがその前にやることを思い出す。

未だに離れようとしない野犬の頭に銃口を突きつけて発砲。

足を庇うことはしない。

そんなことをしたら今、彼の周りをグルグルと回っている野犬が一斉に襲い掛かってくることだろう。

まだ彼女の援護をすることは出来そうに無い。

そんな彼女も野犬の群れに苦戦を強いられていた。

突っ込めば離れ、隙が出来たと思えば瞬く間に飛び掛ってくる。

彼女が離れれば退路を塞ぐように移動する。

だから彼の近くにも移動することが出来ない。

そして飛び掛ってくる野犬を薙ぎ払う。

突きでは隙が出来てしまい、他の野犬に襲われる可能性が出てきてしまう。

だからあえて柄で弾き飛ばして打開策を考えないといけない。

1匹が飛び掛ってくるのを弾き、2匹、3匹、4匹目も弾き飛ばす。

だが彼女は気づいていなかったか。

飛び掛ってくる野犬の下に走り寄って来ていたもう1匹の存在に。

気づいた時には遅く、さらに薙ぎ払った直後であるために致命的な隙となってしまう。

それを逃さずに野犬は彼女の首を狙って飛び掛る。

咄嗟の判断で彼女は左腕を盾とする。

激しい痛みと沸騰するかのような熱さ。

右手に握っている槍を短く持ち、穂を野犬の頭部に突き刺す。

痛む左手で野犬を掴み、飛び掛ってきた野犬へとぶつけ牽制する。

彼女もまた打開策を思いつく前に負傷してしまう。

今までのどんな場面よりも危ない絶体絶命。

そんな中で彼はあることを思い出した。

彼の銃弾は数種類に分かれているということを。

通常弾、徹甲弾、そして忘れていた散弾。

広範囲に散らばる散弾を使うことは今まで無かった。

何せ相棒が出来、巻き込む恐れがあったためである。

だが今、彼女とは大分距離がある。

あとはいかにして野犬に隙を疲れることなく弾装を変えるか。

答えはシンプルなものであった。

彼は素早く弾装を交換する。

その隙を逃さずに数匹が飛び掛ってくる。

それを彼は蹴り倒していた。

一斉に襲い掛かろうとはせずに時間差で飛び掛ってくる敵を薙ぎ倒すのは意外と簡単でもあった。

だがそれでも全てを蹴り飛ばせるはずもなく、また負傷してしまう。

場所は左肩。

銃を撃つには向かい無い場所であるために彼は野犬の眼球を指で貫く。

反射的に開いた口を見逃さず弾き飛ばし、交換し終えた散弾を放つ。

今までよりも大きな銃声。

弾き飛ばした野犬の近くにいた野犬までも巻き込んで散弾が穿った。

後は彼の圧倒的展開となった。

手当たり次第に撃った散弾は逃げること叶わずに野犬を貫いていく。

呆気ない最後、だが与えられた傷は意外と大きなものであった。

負った傷を彼は気にせずに彼女の元へと駆ける。

状況は一気に2人有利なものへと転がっていく。

そんな中、彼女もいい加減我慢の限界に達してた。

弾き飛ばすだけでは意味が無い。

相手を殺さない限り、終わりの見えない戦い。

だから彼女は負傷覚悟で攻撃に転ずる。

何回目かの飛び掛りに彼女は柄ではなく穂先で迎え撃つ。

抵抗なく眉間を貫く彼女の槍。

狙ったかのように2匹目が飛び掛ってくる。

貫いた野犬を捨てるには時間が足りない。

だから彼女は野犬を捨てぬまま薙ぎを振るう。

遠心力により抜け落ちる野犬と弾かれる野犬。

そして先程と同じように下から飛び掛ってくる二段攻撃。

彼女はそれを彼と同じ方法で捌く。

人間には両手以外にも両足がある。

それを彼と彼女は思い出しただけのこと。

蹴り飛ばした野犬を無視して彼女は睨みを効かせる。

野生の勘が危険だと教えているのであろう。

野犬は彼女の周囲をグルグルと回るのみ。

襲ってくる覇気も獰猛さも感じられない。

そんな野犬に無慈悲といえる銃弾が降り注ぐ。

彼による援護射撃。

それによって浮き足立つ野犬に彼女も襲い掛かる。

展開はあっという間に好転し、2人の勝利となる。

痛々しい身体となりながらも2人から覇気が抜けることは無い。

戦い傷つき、どちらかが倒れたとしても進まないといけない。

それがこの場所でのルールなのだから・・・・・。