Dream09.【A moment repose】


疲れきった身体を引き摺りながら2人は少しの休憩を終えて次なる戦いの場所へと向かう。

負った傷へは簡単に布を巻き、最低限の血止めを行う。

それだけでは普通ならば治療とはいえない。

だが今の2人にまともな治療道具など持ち合わせていない。

お互いの衣服を千切り巻きつけることしか出来ないでいた。

力が尽きるのも時間の問題。

そしてあとどの位時間が残っているのか2人は把握できないでいた。

あれからかなりの時間が流れていることを2人は自覚している。

だが明確な時間を計ることなど出来ようはずが無い。

だからこそ2人は急ぐ。

動きに精細さを欠かさないように。

「傷の具合はどうだ?」

立ち上がり多少ふらつく彼に彼女は心配そうに尋ねる。

対する彼は多少無理をしながら微笑を浮かべて返す。

「動きが多少遅くなるだろう。何せ足を抉られたからな」

獣の牙というのは治療し辛い。

牙と牙の間の隙間など少々であり、縫合しようにも皮膚が千切れ、繋ぎにくい。

2人の傷は必ず跡が残る痛々しいものとなるであろう。

彼にとってあまり気にしないことだが、女性である彼女は少なからず気にすることとなる。

「日常とは程遠いな」

「日常に戻ったとしても色々と聞かれるだろうな」

この傷の多さで病院に行けば必ず訳を聞かれるだろう。

だが本当のことを話してどうなるであろう。

信じてくれるはずも無い。

現実にありえないことを体験したとしてもそれは本人達だけのこと。

他人、それに相まって相手は大人である。

2人がまだ未成年であり、子供として扱われれば嘘と信じられる可能性が大きい。

子供の戯言、狂言だと言い張られ、最悪精神病棟に送られることだってありえる。

大人はいい意味で現実的であり、悪い意味で頑固で否定的。

「次で終わってほしいな」

「何度目の台詞だ」

彼の希望を彼女の現実的な意見が否定する。

希望とは否定され、絶望が肯定される。

だがそこで希望を完全に否定してはいけない。

希望とは最後まで信じてこそ力を発揮するのだから。

「といっても貴方も体力的、精神的に限界でしょう」

「それはお前だって同じだろ。特にお前は負傷しすぎだ」

お互いにボロボロな状態だということは分かっていた。

だからこそ早期の終わりを願っている。

この場所に入って大分経つのだからそろそろ終わりだと思いたい。

「いいな、開けるぞ」

「いつでもOKですよ」

傷だらけの手で彼女は扉を開け放つ。

瞬間、派手な音と共に紙吹雪が舞い2人を圧倒させた。

緊張感が一気に抜けるとはこういうことかと今まででは考えもしなかったことが頭の中を流れる。

『おめでとう。まさか此処まで君達が来れるとは思っていなかったよ』

久しぶりのはずなのに、5分前に聞いたかのような錯覚を覚える中性的な声。

忘れようはずが無い、2人をこの場所へと連れてきたであろう人物の声。

沸き立つ怒気を押さえ込みながら彼は考える。

おめでとうというのだから、此処がゴールなのだろうかと。

だがこのムカつく声の主のことだから何かまだあるはず。

油断しないように構えると、それに同調するかのように彼女もまた油断なく辺りを警戒する。

『さすが此処まで来れただけの事はあるね。まだ何かあると思っているなんて』

「糠喜びはしない主義なんだ」

彼の言葉に声の主は苦笑をしながら、だが期待に応えてくれたとばかりに嬉々として言葉を紡ぐ。

『だけどその警戒心があるからこそ君達は此処まで来れたんだ。そしてゴールも目前』

2人はゆっくりと細心の注意をしながら部屋の中へと踏み込む。

ゴールが目前であろうとなんだろうと悪趣味な声の主が現れたということは何かが起こるということ。

それを2人は理解している。

『そしてこちらでも意外と余裕で来れた君達に対して敵を送り込もうと思ったのさ』

地面から現れるように2人の鎧を着込んだ敵が現れる。

『君達の動きを分析してもっとも相性の悪い敵を用意してみた。存分に楽しんでくれたまえ』

プツリとまた声が消える。

だが何処かで監視するかのような視線を感じることが出来た。

鎧を着込んだ敵が構える。

対する2人も重心を低く取り、相手の動きに合わせて視線を動かす。

そして4人は動き出した。

最後の戦いが幕を上げる・・・・・。


    残り時間【23時間14分】