P−1【First Encounter】


高校生活もすでに1年半が過ぎ、残り半分を残す状態。

入学式、夏休みを終え次に来るのは文化祭だろうか。

光淵高等学校、此処が彼や彼ら、彼女や彼女らが学び育っている場所。

そしてこの世界が少しばかり特殊であることを物語っている場所でもある。

そのもっとも足る場所が光淵高校、生徒会室。

そこでは現在ある一人の学生への査問が行われていた。

「学年と部活を言いなさい」

中央に立たされている学生に対して正面に位置する机。

生徒会長という腕章を付けているのが2−A【橘 霧枝】

「2−D所属、聖堂 晶。部活は帰宅部」

中央に立たされている少年が警戒しながら質問に答えていく。

彼にとって何故自分が此処に立たされているのか理解できなかった。

多分何かしたのだろうとしか思っていないが原因であることに気づかず。

「君は何故自分が此処に呼ばれたのか理解している?」

「皆目見当つかないな」

彼の言葉に一瞬生徒会室が怒気が溢れた気がしたが、彼が怯えることはない。

逆に会長は溜息を吐いて呆れている様子。

この状況を許していないのはどうやら会長以外の役員の面々のようだ。

「では昨日起こったことを説明しようか。篠原、説明を頼みます」

会長の言葉で立ったのは少女の腕章には書記と書かれいる。2−B【篠原 唯】

机に置かれている書類を手に取り、厳しい表情で淡々と読み上げていく。

「昨日午後4時10分頃。化学室で暴力事件が起こっていると生徒会室に通報がありました。

殴り合いの喧嘩を行っているのは4人であると報告のためこちらは副会長を派遣することにし、事態の

解決を行うことにしました。幸い4人はESP所持者ではないことが分かっており、早期解決が予想

出来ていました。ですが結果は化学室の爆発という大惨事が起こり副会長が2階より落下し重症。

喧嘩の原因であった4人も爆発に巻き込まれて重症です」

そこまで喋り、書記の唯は晶を睨めつける。

ただし元々の顔が可愛いほうであるためにそこまでの迫力は生まれない。

逆に睨まれている晶はそんなこともあったな程度の理解しかしていない。

「ただ的確な応急手当、迅速な救急車の手配により命の危機が関わることはありませんでした。

それだけでも不幸中の幸いでした」

「昨日あった時間について分かりましたが、それと私が此処にいることにどんな理由が?」

また怒気が膨れ上がるも晶は全く気にしない。鈍感とかではなく本当に気にしていない様子。

落ち着いているというよりも興味がないのだろう。

「爆発の原因究明のためにESP所持者に協力してもらった結果、そこに何故か貴方が映ったのですから

此処に呼び出したのです」

「端的にいって貴方が犯人ではないのかと生徒会では思っている」

生徒会長の言葉に今度は彼のほうが溜息を吐く。

「違う」

「なら証拠を見せろよ!」

机を激しく叩き声を荒げる少年がいた、腕章は会計。2−B所属【柏木 黄春】

その表情は今にも晶に殴りかかりそうなほど怒りに満ちている。感情を制御できていないのか

彼の周囲でパチパチと静電気が弾ける音が鳴り出している。

「あるわけないだろ。あそこには監視カメラも何もないんだ。物的証拠はゼロに等しい」

黄春の怒気が遂にリミットを超えた。静電気は放電現象へと変わり、感情に理性がついていっていない所為で

能力を制御し切れていない。つまり力が暴走している。

生徒会室にいる全員が表情が凍りつく中、会長と晶だけが呆れていた。

感情で能力を暴走させるのは愚の骨頂であり、重大な厳罰対象となるのだから。

「黄春、抑えなさい」

「だって会長!」

「抑えなさいと言っている!」

一喝と同時に黄春の身体が机に叩きつけられ、黄春がぶつかった机も衝撃と何かの要因で潰れた。

ただ漠然と見ていた晶は会長の眼が紅くなっていたことに気づく。

ESP反応、それが紅くなる原因。

この世界には超能力という不可思議な力が存在している。

だがそれは全人類が持っている訳でない、10人に1人くらいが持っている程度の力。

そして力自体も大きな力、小さな力、必要性のある力、不必要な力に分かれている。

何故こんな力が宿るのか原因は今も究明され幾つかの仮説も立てられているが真実がどれかははっきりしていない。

現在は一般人と超能力者を隔てる差別は無くなりはしたものの、犯罪は過去よりも複雑化した。

超能力による犯罪は不可能犯罪を容易に作り出すことが出来る。

その逆に犯罪を暴くことに協力する超能力者も現れる。

今では一般人の犯罪など可愛く感じられるほどに超能力者の存在が大きくなりすぎていた。

だからこそ力の意味、理屈、制御の方法を学ばせなければいけない。

成長してから教えたのでは意味は無く、小学校あたりから超能力者には専用のカリキュラムが用意されている。

それに合格しない限り外出が許されないほどの厳しいもの。

だが人が成長していく過程で力の意味を別の方向へと考えるものも出てくるだろう。

だからこそ幾ら律しても犯罪が消えることは無い、それが人間というものなのだから。

「まだ彼から弁解を聞いていない。それを聞いてからでも判断するのは遅くない」

淡々とした喋り方。女性らしくも無いが、感情が伴っているようにも聞こえない。

それが生徒会長独特の会話だと理解していても違和感が拭えない。

「黄春が失礼した。此処にいる皆は副会長と仲のいい連中ばかりだから許してほしい」

「何となく感じてはいたけどな。それであの時の状況説明だったな」

「頼める?」

「やらないと平穏には戻らないだろ。といっても単語だけでも喋れば会長なら理解できると思うけどな」

「一応他の者達にも理解できるように喋ってもらえると助かるわ」

面倒臭そうに頭を掻きながらチラリと周囲を見渡してみるとやはり怒気を孕んだ視線がぶつかってくる。

ちゃんとした説明をしないと先程の黄春と同じことが起こりかねないことは予想できる。

「分かったよ、なら簡潔に説明させてもらうさ」

「頼みます」

場を収めるために彼の弁解が始まる。

それは確かに彼が関係ないものであると証明でき、ただし彼にも責任があると物語るものでもあった・・・。