01.【絶望の始まり】 深い闇に支配されつつある森の中。 それぞれの気持ちを無視する脅威は勝手知らずに進行を開始していく。 誰にも覚悟はあるが、最悪の事態を想定しているわけではない。 何故ならこれは授業の一環であり、絶対に安全だと思い込んでいるのだから。 魔獣との戦闘であろうが誰かが必ず助けてくれると信じている。 それが最悪の事態を招くとは思わずに。 彼らは総勢で13名からなる学園からの増援として連れて来られた。 実地研修という名目であるも、実戦を経験していない者達にとって恐怖ばかりが募る。 何故学生である彼らがこの場に呼ばれたかといえば、簡潔に言えば時間稼ぎである。 大本命であるエリート達は別件で起きた事件に掛かりきり。 だからこそエリート達が帰ってくるまで学生に頑張ってもらわなければいけない。 もちろん学生の他にこういったことに慣れている者達もいる。 だからといって安心も出来ない、脅威に対して絶対数が違うのだから。 実戦を知っている戦士達は今がどういった状況か理解している。 もしもエリート達の到着が遅れれば待っているのは破滅。 もしもエリート達の到着が早まれば待っているのは勝利。 今回の仕事で鍵を握っているのは戦闘のプロフェッショナル。 だがそんなことを学生達は知らずにいた。 誰かが助けてくれる、死ぬことは絶対ないとありもしない精神論を語っている。 それが一層他の戦士達との溝を深くしていく。 そして作戦が始まる。 作戦といっても難しいことではない。 最終ラインを絶対死守、ただそれだけである。 迫り来る魔獣の群れをある一定ラインまで到達させなければいいだけ。 もちろん学生達が何処に配属されるかは分かっている。 実戦経験も無い未熟者達を前線に送るわけが無い。 来るのは精々討ち漏らされた魔獣だろうと学生達も高を括っていた。 しかしチームワークの乱れが破滅を呼び込む。 今回の事態をただのテストだと思い込んでいた生徒が一人突出してしまう。 魔獣を沢山倒せばそれだけ評価点が増えると思っているのだろう。 それに感化されるように他の生徒達も本来の持ち場を放棄して奥へと進んでいく。 「死にたいのか!?」 リーダー的存在である生徒の叫びも届かず生徒達は死地へと自ら向かっていく。 歯噛みしつつも生徒達の安全を守るためにリーダー的女性も奥へと進む。 その行動は確かに間違ってはいなかった。 生徒を見つければ問答無用に叩き伏せ、本来の持ち場に戻るよう脅迫を行う。 説得をしている暇などありはしない。 そして最後の3人というところで最悪の事態が発生した。 「囲まれたか」 彼女を合わせて4人をグルリと魔獣が包囲している。 さすがに生徒達だけでは分が悪い数、それに生徒2人は怪我を負っている。 とてもじゃないが今の状況を打破できる状態ではない。 「アルエさん・・・」 「諦めはしないが絶望的だな」 生徒達の中で一番の実力者である彼女にも今の状況が不可避であることは明白。 何かしら外部からの協力がない限り無理。 包囲している輪の中から一匹の魔獣が襲い来る。 他の魔獣たちは様子見なのかそれとも余裕なのか手を出してこない。 「舐めてくれる」 迎え撃つは他の生徒達を背後に、守るようにして立つ彼女。 手にしているのは女性には重いであろう長剣。 だが彼女は苦も無く長剣を構えている。 魔獣は狼に似た形状をしており、いつでも突っ込んでこれるように前屈みとなっている。 「どうした、来い」 静かに、だが挑発するように喋る彼女に魔獣は動き出す。 地面を蹴り、宙を滑空する形で飛び掛ってきた魔獣に対して彼女は冷静に対処する。 長剣を真横に構え、魔獣の口へ平行となるように振り抜く。 両断された魔獣は勢いを殺されてそのまま落ちる。 目の前で仲間かもしれない魔獣が殺されても他の魔獣たちは冷静であった。 次も押し出されるように一匹の魔獣がアルエと対峙する。 「嬲り殺しにする気か」 体力が尽きた頃を見計らって一気に襲い掛かってくるのだろう。 こちらの戦力が2人であるからといってただじっと獲物が弱るのを待っている。 逆に生徒達にもこれはメリットがある。 戦闘のエキスパートが到着するだけの時間を稼げるのだから。 斬って、斬って、ひたすら魔獣を斬り殺すアルエを後ろで見守っている生徒達は恐ろしく思えていた。 技術的な意味でアルエは生徒というレベルを超えている。 だがそれ以上に彼女の放つ殺気が仲間すらも恐怖に陥れている。 動こうにも身体が硬直して援護も出来ない。 孤立しながらもアルエは自分自身の責任を貫き通すだろう。 しかし目の前ばかりに囚われてはいけなかった。 魔獣の考えが統一されているとは限らないのだから。 これから起こることは惨劇か、救済か。 それは生徒達の行動次第かもしれない。 |