03.【運命の足音】 あの戦いから三日が経ちアルエ達、学生参加者たちは学園へと戻ってきた。 初めての実戦で精神的にも疲労が溜まっているだろうと学園側の配慮で彼女達は休校となっていた。 だがそれでも全員が戻ってきたわけではない。 やはり怪我を負った者達はまだ入院していたりする。 比較的傷の浅い者達だけが許された。 だが実戦を経験したからといって彼女達の態度が変わるわけもない。 日常に異常を持ち込んでも何にもならないのだから。 それでも周囲の反応は違っていた。 英雄視されるのは当然かもしれない。 初めての実戦で成果を上げ、無事に帰還できたのだから。 生徒達からは祭り上げられ、しかし教師達からは厳しい叱責を受ける。 独断行動を取ったのだから当然の結果だといえる。 それでも落差に参加者達は戸惑っていた。 ただ一人を除いては。 「一度でいいから戦ってみたいな」 廊下を歩きながら呟く一人の女学生。 あの時、魔弾の射手の戦いを見てから彼女の中である欲求が生まれている。 強者との戦いを彼女はずっと望んでいるのだから。 だがそれは叶わぬ願いだと思っていた。 魔弾の射手に関して情報が少なすぎるため。 何処に住んでおり、何処を中心に活動しているのか、年齢不詳など。 そんなことを考えながら彼女は当てもなくただ廊下を進んでいく。 擦れ違う人々に気を配っているわけではないのだが、ある生徒が通り過ぎたところで彼女は慌てて振り向く。 何かを思い出す、それはとある人物を思い描く。 「ちょっと待って」 だからこそ彼女は呼び止めた。 そして振り返った人物を見て予想外の事態に驚き、しかし喜びを感じる。 そこにいたのは紛れもなくあの時見た人物であったのだから。 こんな簡単に会えたことに疑問など感じず率直に次の言葉を紡ぐ。 「貴方に決闘を申し込む」 廊下にいた人物全員が驚嘆の表情を浮かべるも彼女にはどうでもよかった。 ただ自分の欲求が満たされる思いでいっぱいだったのだから。 だがその一言は学園中の生徒達を震撼させるには十分すぎた。 決闘とはこの学園独自の制度である。 実力主義も取り入れた学園は実技試験を廃止、それぞれの対決によってランク付けを行っている。 上位にいけばもちろん強者、そして卒業後の待遇も優遇される。 上級生だろうが下級生だろうが決闘の申し込みに例外はない。 逆に決闘を行わなければずっと最下位のまま変動はない。 そんな稀有な存在はないはずであった。 そして彼女は自分自身にある制約を課している。 自分よりも強い者と付き合う。 彼女の血がそうさせるのか、または別の理由があるのかは不明。 その所為か彼女に対しての決闘申込者は後を絶たない。 そして今まで一度の敗北のない彼女はいつしか『剣姫』と学園で呼ばれるようになった。 だがそれでも彼女から決闘の申し込みをしたことはなかった、この時までは。 だからこそ彼女の発言は強い力を持ち、瞬く間に学園中に広がるだろう。 相手の意思など関係なく。 「返事を聞かせて」 「断りたいけどそうはいかないんだろうな」 決闘に拒否権はない。 どんなに力量の差があろうと拒むことは許されない。 そこに運という要素が加わればもしかしたらがあるから。 「でも何で俺なんだ。自慢じゃないが俺は最下位クラスだぞ」 その発言に再び周りが騒ぎ出す。 剣姫が決闘を申し込むのだからそれなりに実力のあるものだと思っていたのだろう。 だが本人の口からその発言が出たのなら信じるしかない。 「ある人物に似ているから、それだけで理由にはならないか?」 「ようするに真偽を確かめるために俺と戦うというわけか」 呼び止められた人物は盛大にため息を吐きつつも決闘を承諾する。 今まで一度として決闘など行ったことがない人物にしては肝が据わっていると思われる。 怯えも緊張も何もない。 ただ見えるのはダルさだけ。 「侮辱して済まないが名前を教えてくれないか?」 「知らないで決闘を挑むのかよ。テイルだ」 「決闘は明日、放課後でいいか?」 「構わない、どうせ予定なんてないんだから」 その会話を最後に二人はそれぞれの方向へと去っていく。 呆気ない会話の終わり。 だがそれだけで十分だと二人は思っていたのだろう。 しかし周りの学生達は十分ではなかった。 ありもしない憶測を並べるも、明日の決闘の話で夢中になる。 もうすぐ今学期が終わる頃に起きた大きなイベントだと感じたのだろう。 剣姫、そして魔弾の射手、二人の出会いはあまりに早く、騒がしいものとなってしまった。 だからこそ意味があるのか、それとも何かしらの意図があるのか。 その答えを出す前に二人は戦いへと備える。 |