04.【お互いの望み】


その日の授業を終え、アルエは真っ直ぐ闘技場へと向かう。

約束は放課後と伝えているが正確な時間までは伝えていない。

ならば申し込んだのだから相手を待たせては非礼に当たると考えたのだろう。

向かう最中に色々な視線を向けられる、羨望、嫌悪、疑問。

注目されるのは当然であり、色々な噂や事実で嫌われているのも彼女は気づいている。

だが周囲のことに無頓着なアルエは今まで苦悩したことは無い。

ただ自分自身の大切なもののこと以外では。

闘技場へと到着すると先客の存在に多少驚きつつ、それでも心を静めて対峙する。

「予想通りに来てくれて助かる」

彼の言葉に疑問が浮かぶが何より周りに誰もいないことが不思議。

決闘となれば大なり小なり観客がいてもおかしくないはず。

なのに今の闘技場にはテイルとアルエと何故か学園長がいるだけ。

「学生の皆には今から一時間後に決闘が行われると触れ回ったのよ」

そこで先程の視線で疑問が混じっていることに気づいた。

一時間も前に会場に向かって何をするのかと思われたのだろう。

「貴方達が手を抜いて戦えば私的には結構なんだけど、拮抗するとどちらかが本気になり掛けるでしょ」

人間という範疇で戦っていけばおのずと限界を迎えてしまう。

だがそれは彼女たち本来の限界とは違い、手加減した状態であるため不満が生まれる。

そして一瞬の気の迷いが人間という範疇から抜きん出た力を出す場合を考えられているのだろう。

「私のことも学園長はご存知なんですか?」

「もちろん、その年で貴方の技術が抜きん出ていることは理解しているわ。それでも手を抜いていることも。

でも混血だと知ったのは彼から聞いてから」

確認のためにテイルへと顔を向けると彼は気まずそうに顔を逸らす。

本来ならば怒ることなのだが、何故か彼に対して憤怒という感情が湧き上がらない。

「ごめんなさいね、一応彼には私に対して報告義務があるの。これでも彼の身元引受人だから」

「おかげさまでこき使われているがな」

つまり前回の使った技で彼は彼女を混血であると確信し、それを学園長に伝えた。

だが不思議なことに学園長が混血だと知っても普段と接し方が変わらないこと。

「あの、学園長」

「言いたいことは何となく予測できているわ。何故混血を恐れないのか。だって身近に同じ存在がいるんだもの」

「つまり俺だな」

口外してはならない秘密をあっさり暴露してしまう彼に彼女は暫し呆然としてしまう。

彼にしてみればこの場で公言しても知っている人物しかいないのだから構わないのだろう。

「混血の状況だって把握しているわよ。存在自体が稀有であるが人々に認知はされている。ただし

恐れの対象として。理由はその力の巨大さね。でもそれだけじゃない、他は人間となんら変わらないのだから

私にとっては特に怖がる対象とはならないわ」

学園長が言うことはもっともなのだが大多数の人間が同じ考えを持っているとはいえない。

むしろ反対の考えを持っている人間のほうが多いだろう。

人間は自分達の限界という範疇から抜きん出ているものを例外なく恐れるのだから。

「まぁ深く詮索しても人の心の中なんて誰にも分からないわよ。それよりも戦闘の時間がどんどん減っている

けどいいのかしら?」

時間制限が設けられていることにアルエはようやく気づいた。

混血同士の戦いを見せないために学園長が築けた時間は1時間、そのうちの10分が消えている。

「時間は有限よ、巻き戻すことも増やすことも出来ない。だから目的のために有効活用しないと」

学園長の言葉に頷きつつ、訓練用の剣を構える。

これは闘技場での戦闘で相手を殺さないために刃を潰したもの。

だがそれの顔を顰めたのはテイルだった。

「そんな粗悪品で戦いが出来るか、自前の剣を使えよ」

「それもそうね。どちらにせよ、訓練用の剣じゃ貴方の足枷にしかならないわよ」

正直それはアルエも感じていた。訓練用の剣ならば本気を出せば何本だって折る自信はあるのだから。

だからといって自前の剣は殺傷能力がある。いわば人を殺すことが出来るのだ。

「本当にいいの?」

「そうじゃないとお互い本気で戦えないだろ」

その言葉でアルエは自身の目的を思い出す。

彼と本気の戦いがしたかったのだと。

握っていた剣を放り投げ、腰に下げていた長剣を抜き放つ。

その眼にはすでにテイルしか映っていない。

お互いに口元を少しだけ笑みに変え、舞踏への準備を整える・・・。